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Channel: 映画の感想文日記
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★ 『クロユリ団地』

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2013年。「クロユリ団地」製作委員会。
  中田秀夫監督。秋元康企画。
 5月に公開されて、すでに2ヶ月近く経過しているので、さすがに観客も少ないだろうと思ったら、ちょうど学校が試験前の時期のためか、 高校生や大学生たちが勉強の合い間の息抜きのつもりか、あるいは現実逃避の目的でか、多数つめかけている。
 上映が終了すると、その多くが「後味悪すぎるだろ。」とか、「マエアツの顔が一番怖かったよ。」などとブツブツと言い合いながら劇場の外に出て行った。
 大ヒットした映画だが、総じて評判の悪い映画なので、ちょっと警戒していたが、そんな心構えは不必要だった。
 素晴らしい日本映画とは、2013年の現在、『クロユリ団地』以外にはただの1本も存在していない、と断言することが出来るはずだ。
 公開中の映画を大して見てもいないのにそんなことが言えるのは、単に『クロユリ団地』が、とび抜けて面白かったからだった。
 思い込みで貨幣価値に換算すると、『真夏の方程式』は350円、『俺はまだ本気出してないだけ』が20円、『クロユリ団地』が1500円、他は見ていないので保留だが、『クロユリ団地』より高い価値を持つ映画はないような気がする。
 洋画だと、『死霊のはらわた(リメイク版)』が15円、『ダイ・ハード・ラスト・デイ』は30円、『ラスト・スタンド』は500円、『オブリビオン』は1200円、『キャビン』は15円、『ヒッチコック』が500円といった印象だった。

 ふだんあまり映画を見ない人がこの作品にがっかりするのは当然で、大して怖くない上に、物語の語り方にもちぐはぐなところが目立つので、『リング』や『呪怨』のようなものを期待すれば、間違いなく失望する。
 それに、この『クロユリ団地』という映画は、はっきりと失敗作である。

 『リング』のヒデオナカタが新作を発表するというので、世界中の映画業界人が新たなビッグマネーを産み出す種子を探そうと、この映画に注目しているはずだが、その人たちも、「何だ、『アザーズ』や『バニラスカイ』、『シックス・センス』程度のものだったな。」と口々に失望を表明する姿が想像できる。

 しかし、この映画の素晴らしさと美しさはその失敗のしかたにある。
 ある人は、すぐにジャック・クレイトンの『回転』(1961年)を想い出すに違いない。
 前田敦子の演技は『回転』でのデボラ・カーをトレースしているようにも映る。
 本来は心理スリラー映画として製作していたものを、プロデューサーの要請で無理やりホラー仕立てにさせられてしまったような奇妙な違和感もある。
 この映画は前田敦子演じる明日香の心の旅路を物語る心理スリラー映画で、ホラーの要素は商品の飾りつけのようなものだろう。
 予算の少なさや、撮影期間の不十分さなどがあからさまに画面から伝わってくるのも、中規模資本のプロジェクトの苦労がうかがわれる涙ぐましさとして独特の味を創り出してもいる。

 志は高いが、それを最大限に発揮できる環境が用意されていなかった。そういう失敗作の数々は、映画の歴史の中に多い。オーソン・ウェルズの『偉大なるアンバーソン家の人々』や『フェイク』、ホラー映画でもダリオ・アルジェント監督の作品はほぼ全部が失敗作だとも言える。キューブリックの『シャイニング』でさえ、スタッフの誰もが納得しないままに納品されている。

 『クロユリ団地』の失敗の仕方は、荒っぽくて説明不足な部分があちこちに見られるだけに、映画の未来へのより大きな可能性が同時に発生してもいる。こういう失敗の仕方は、スタッフの映画に対する愛情の深さや教養の豊かさが垣間見えてきて、「これが映画という娯楽商品のあるべき姿だ。見る者の思考を活性化させて、生き生きとさせる。人間の経済活動の中に映画が存在する意義とはこれのことだ。」と思ったことだった。
     IMDB         公式サイト(日本)
映画の感想文日記-kuroyurid01
 愛する人を亡くした悲しみ、愛する家族を亡くした悲しみ、誰もが経験するそれらの苦難をどう乗り越えていけば良いのか。この作品は、その普遍的な主題に対して心理スリラー映画とホラー映画のミックスのようなかたちで物語りながら答えを探ろうと悪戦苦闘している。
 アーロン・エッカートとジェニファー・アニストン主演の『わすれた恋のはじめかた』でも描かれていたように、悲しみを乗り越える方法などどこにも存在しない。それに押しつぶされることなく、ただひたすら悲しみとともに死ぬまで生きるしかないのだ、という真実の物語を『クロユリ団地』はスリラー映画に着地させた。それがあまりうまくいっていないように見えるラストシーンのせいで評価も低くなってしまったのだと思った。
 しかし、多くの人が意外と忘れていることがある。たいていのホラー映画は名作と呼ばれる作品でもしょぼくてあっけない終わり方をする、ということを。
 観客に余計な心理的負担を与えないためにもホラー映画はせこく終わるのが正解ではないだろうか。などと思ったりもする。

 近年のホラー映画の中でも、この『クロユリ団地』は相対的にすぐれている。『インシディアス』や『エスター』にはちょっと劣るかも知れないが、『SAW』シリーズや、『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ、『グレイヴ・エンカウンターズ』やサム・ライミ監督の『スペル』や無数にあるゾンビ映画やスラッシャー映画よりははるかに志が高くまともに映画を作ろうとしている。
 最近のホラーよりは1950年代から1960年代あたりまでの、怪奇映画と呼ばれていた時期の映画の感触を思い起こさせてくれるところにもチェーン店ではない個人経営のコーヒー店みたいな独自のルートで仕入れた味わい深い風味がないこともない。
映画の感想文日記-kuroyurid02
 かつてアイドルグループの中心にいたとは思えない前田敦子のATG映画の女優みたいな、ちょいヌーヴェルヴァーグ風な雰囲気は素晴らしかった。一時期のイザベル・アジャーニにそっくりである。
 演技の勉強はまだそれほどしていないのか、ときどきあれれと思うシーンもあったが、俳優は演技力よりも存在の仕方が優先するので今後にも期待できるし、この路線での有望株だろう。
 自分で選択しているのか誰か周囲のスタッフにブレーンがいるのかは不明ながら、フレッド・アステアやグレース・ケリーの映画を愛好したり、小津安二郎や溝口健二、キム・ギドクから、ハーモニー・コリンなどを好んで見に行くチョイスにはちょっと驚いた。
 そのうちに映画エッセイストになるのかも知れない。または日本版レア・セドゥーあたりを目指しているのだろうか。
 共演の成宮寛貴が床に吸い込まれていくシーンと、炎の中で「助けて!」と叫ぶシーンは優秀なホラー映画にはつきもののお笑いシーンで楽しかった。
 子役の子がぜんぜん怖くないので、それが最大のマイナス要素だったようだ。かわいらしくて悪霊には見えない。
 一番ぞっとするシーンは西田尚美と勝村政信の夫婦が全く同じ会話を三回繰り返してするところで、違和感のある照明から、ホラー好きならすぐにそれが何を意味するか理解する。(ホラー好きでなくても誰でもわかるように演出がわかりやすくていねい過ぎたように思われた。)

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★ 『ローマの哀愁』

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1961年。アメリカ。"The Roman Spring Of Mrs. Stone".
  ホセ・クィンテーロ監督。テネシー・ウィリアムズ原作。
 テネシー・ウィリアムズの『ストーン夫人のローマの春』という怖ろしくて残酷な小説を映画化した作品で、舞台では何度も上演されているらしい。
 聞いたことのない監督の名前に興味をもってIMDBを見てみると、この監督はこの一本しか映画を監督していない。その後いくつかテレビドラマの演出家をやった後に業界を去ってしまったようだった。 本職はブロードウェイの舞台演出家らしい。

 主演のヴィヴィアン・リーが『風と共に去りぬ』で脚光を浴びたのが1939年、それから20年後に製作された映画で、彼女はすでに47歳となっていた。肺の病気や心の病などで苦しんでいた時期の映画で、この映画の6年後には、ロンドンのアパートで孤独に亡くなっているのが発見されている。
 そういうヴィヴィアン・リーのプライベートなゴシップを考え合わせると、この映画への出演は、彼女の一世一代の決心による、命をすり減らす覚悟での捨て身の登板だったようにも見えてくる。
 あまりにも自分自身そのものの役柄を演じることのつらさは想像を絶している。

 ロマンチックな日本語タイトルとは違って、この作品は一種のホラー映画でもある。自分がもう若くないと自覚し始めた女性の中には、恐ろしさのあまりに、劇場を飛び出して逃げ去った人もいたかも知れない。
       IMDB
映画の感想文日記-romans01
 何年間もロングランを続けている人気舞台劇のステージの楽屋で鏡を見つめて、自分が昔みんなからちやほやされていた頃の美貌をとっくに失ってしまっていることを自覚したキャレン(ヴィヴィアン・リー)は、突然すべてがいやになり、舞台出演はこれっきりにして引退を決意する。
 若くぴちぴちした肌をもった新人女優が、キャレンに「あなたは私の永遠のあこがれです。」と言ってきても、もはやいやみにしか聞こえなかった。

 時を同じくして献身的に彼女につくしてきた夫が心臓発作で死んでしまう。莫大な遺産を相続したキャレンは、彼女のことを知らない人の多いイタリアへ移住して、ローマの最高級のアパートで孤独に余生を過ごそうと決意する。
映画の感想文日記-romans02
 ローマの社交界で悪評高いマグダ伯爵夫人(ロッテ・レーニャ)は、さっそくキャレンが遺産とともにローマに移住したことを聞きつけて、キャレンのアパートを訪ねる。
 伯爵夫人にはなぜか若いハンサムな青年パオロ(ウォーレン・ベイティ)が同行していた。
 伯爵夫人は実はお金に困っており、孤独でお金持ちの女性に若い男を紹介しては、お金を引っ張れるだけ引っ張ってこさせる、というあくどい商売で生計を営んでいたのだった。
 伯爵夫人役のロッテ・ネーニャ(『三文オペラ』の作者、クルト・ヴァイルの妻)は、この映画での迫真の演技によって、アカデミー助演女優賞候補になっている。
映画の感想文日記-romans03
 はじめは伯爵夫人の策略を察して、うんざりして二人を追い返したキャレンだったが、伯爵夫人には長年の経験の蓄積から、孤独な女がどのようにすれば男に引っかかるかという技術が身についていた。

 街で偶然出会ったふりをして話しかけたり、こんな仕事をしているが、夢は別にあり、生き延びるための手段だと割り切っている。孤独な魂をかかえて生きていると見せかけるために、さりげなく不幸な生い立ちを推測させるような言葉を口にする。
 知性や教養がないわけではないことを示すために、書店で難解な詩人の書物を手にしているところをキャレンが偶然眼にするように用意周到な計画のもとに実行したりする。

 若い頃のウォーレン・ベイティ、当時23歳)は完全に役柄になりきっている、というよりもこのまんまの男だったのだろう。若く野望に満ちており、軽薄で他人を見下した態度で、自分の壮大な夢を語りたがる。
 全身からただよう色っぽさは、男の眼から見ても並外れているように映る。
 ほとんど歩くセックス・マシーンだと言っても良いような感じだ。
 角度によっては、ちょっと嵐の松本潤に顔つきが似ている。松本潤をセクシーで軽薄なホストにしたような雰囲気がある。
映画の感想文日記-romans04
 伯爵夫人の策略とパオロの女性をだますテクニックの見事さによって、ついにキャレンはパオロを恋人として受け入れる。
 パオロの甘い愛のささやきと、ベッドでのテクニックによって、キャレンはたちまち身も心もパオロのとりこになる。
 孤独なキャレンはパオロを自分の唯一の理解者だと信じて、パオロが欲しいと言えば、お金でも高価な宝飾品でも何でも手渡し続けた。

 知人たちの前では、ばかな色ぼけ女のおかげでぜいたくな暮らしが出来るようになった、とうそぶくパオロだったが、パオロも実はただのばかな青年ではなかった。
 キャレンの孤独な心に自分の孤独が共鳴する瞬間を感じたパオロは、彼女から金品をだましとる生活を恥ずかしいと思い始める。彼はいつの間にか本当にキャレンを愛し始めていることに気づいたのだった。

 パオロが自分の手元から離れてしまいそうだと敏感に察知した伯爵夫人は、ハリウッドからローマに撮影に訪れた若い新人女優バーバラ(ジル・セント・ジョン)を紹介する。
 「あんなおばあさんと付き合うのはやめて、つりあった相手を恋人にしなさい。」と言ってパーティーの席を用意した伯爵夫人だったが、
 偶然そこには知人と食事をしているキャレンがいた。
 パオロとバーバラが話している姿がいかにもお似合いの恋人同士だと思い込んだキャレンは、パオロを口汚くののしった後、涙を流しながらその場を立ち去る。そして、パオロに二度と私の部屋に来ないでと別れを告げる。キャレンはパオロに説明するすきさえ与えなかった。

 自分の愚かさと孤独さなどのすべてに絶望したキャレンはアパートの最上階のベランダからローマの街を見下ろす。キャレンが移住してきた当初から、アパートの近くの街角にはお金持ちをつけ狙っていると思われるみすぼらしい身なりの若い男がストーカーのようにキャレンのアパートのベランダを凝視していた。かつてはあの男もパオロみたいなことをしていたのかも知れない。
 そして、キャレンは街角の若い男の方角へ部屋の鍵を投げ落として目配せする。
 「私を殺して、金品を奪ってもいいのよ。」という無言のメッセージだったのだろうか。やがて深夜になり、音もなく部屋の扉が開いた。そこにはナイフを手にした街角の若い男が立っているのだった。

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★ 『逢う時はいつも他人』

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1960年。アメリカ。"Strangers When We Meet".
  リチャード・クワイン監督。エヴァン・ハンター原作・脚本。
 互いに配偶者と子どもがありながら、許されざる恋におちいってしまい、別れるに別れられない感情をどうすることも出来ずにいる男女が、いろいろな経緯で結局別れるまでの物語。
 そんなどうでもいい話がなぜこんなに面白いのかが、不思議で仕方がない。

 原作者のエヴァン・ハンターは、ミステリ作家、エド・マクベインとしての方が日本では有名らしく、黒澤明の『天国と地獄』の原作者(『キングの身代金』)としても知られている。
 やはり、脚本が良いのだろうか。確かに登場人物ひとりひとりが、自分の感情で身動きがとれなくなっていくさまがていねいに描写されているので、ドラマが生々しい。脇役のキャラクター描写も細かいところまで微妙にうまい。しかし、全体としては、かなり荒っぽくていい加減な脚本でもある。

 主人公のラリー(カーク・ダグラス)は自宅の横にオフィスを構える一流建築家という設定なので、美術やセットにはこだわっているように映る。
 ファッションのことはよくわからないが、1960年前後のアメリカ映画の服装は現在の眼からみるとカッコいい感じのものが少なくない。(日本映画でも同じことが言える。)

 しかし、この映画が当時のアメリカで大ヒットした主な要因はおそらく、主人公の男と女、とくに女(キム・ノヴァク)の濃厚なエロティシズムにあったのではと思われる。
 現在の視点から見ても、この映画はあまりに生々しくみだらなイメージがある。直接的な性の描写などはないが、省略されていることがよりみだらなイメージを喚起するのは、成瀬巳喜男監督の『乱れ雲』(1967年)と共通している。
 ただ単にみだらなイメージだけを求めるのであれば、ポルノ映画やアダルトビデオや、壇蜜の写真集などを見ていれば良いのだが、人が映画に求めるものは性的な興奮作用ではないので、こういう映画が必要とされてくるのだろう。
 現実に身近で見聞きする不倫の話は人をうんざりした気持ちにさせるだけだが、フィクションの中の不倫騒動は単純に面白がることが出来る。
 
 性的な興奮ではないみだらさ、それがメロドラマと呼ばれるジャンル映画のことではないのか、と思ったりもする。男女を問わずメロドラマ好きは多いが、全く興味のない人のほうが多い。
 20歳の頃にはメロドラマなど肥満気味の主婦が見るものだ、と決めつけていた。ラブコメは男に縁のない不細工な独身女が愛好するものだと思い込んでいた。

 それがいつの間にか、この世で最高のジャンル映画はメロドラマかラブコメディでしかあり得ないとまで考えるようになったのは、なぜなのか。
 自分自身の人生に何も期待しなくなったとき、人はメロドラマを愛するようになるのではないか、と思うこともある。ゲイの男性にメロドラマ愛好家が多いのも同じような理由からのような気がする。
 この先に何があろうとも、この映画の主人公ラリーのような生涯を賭けての恋など自分の身には決して起こらないし、キム・ノヴァクのような女性と出会うことも決してない。
 政治的、社会的、文化的なさまざまな固定観念のことを物語と呼ぶとすれば、物語から多少は自由になれたときにメロドラマを楽しむ心が発動するに違いない。
        IMDB
映画の感想文日記-wemeet01
 閑静な住宅街のバス発着所は毎日、保育施設に通う子どもを送り迎えする主婦たちでにぎわっていた。
 その中にひとりだけスマートな身のこなしだが筋肉質でがっしりした体格の男ラリー(カーク・ダグラス)が混じっている。
 自宅が仕事場なので息子の送り迎えはラリーの役割なのだった。主婦たちはラリーをあこがれのまなざしで見つめる。建築雑誌の表紙に採用されるほどの高名で売り出し中の建築設計技師であるラリーは高級住宅街の中でもひときわ目立った存在だった。
 そんなラリーがある日、特別に光り輝くような美しい主婦マギー(キム・ノヴァク)を眼にする。
 ラリーは何を思ったのか、マギーに「自宅まで車で送りましょうか?」と話しかける。
 この時点でラリーは美しい妻(バーバラ・ラッシュ)がありながら、浮気する心の準備はできていたことになる。このあたりの出会いのエピソードはあまりにも不自然でおかしな感じだったが、出会わないことには物語が始まらないので仕方がない、それにしてももっとスムーズな流れには出来なかったものかと思った。
映画の感想文日記-wemeet02
 出会いは不自然だったが、その後のふたりの感情の流れはうまく描かれていて、ラリーが責任者となった丘の上にある新人作家の豪邸が少しずつ完成していくのが時間の経過をあらわしている。
 新人作家(アーニー・コヴァックス)とラリーとの友情のエピソードにも少しひねりが効いていて、人間関係を立体的にさせる効果もあったようだ。
 ラリーの妻の描写には時間がかけられていたが、マギーの夫(ケン・ガルト)の薄っぺらな描写は気の毒なほどだった。やはり、この脚本はうまくはないと思われる。
映画の感想文日記-wemeet03
 この世でもっとも家庭の主婦の役が似合わない女優のひとりであることには間違いないキム・ノヴァクが演じる、夫に愛されなくなった女の悲しみは、妖艶なキム・ノヴァクだけに全く同情できないが、命がけでラリーとの恋におぼれていってからの感情の爆発は美しく、ときどきはかわいらしい素顔も見せる。
 タイトルどおりに外で出会っても常に他人のふりをしなければならないのが、サスペンスを生み出して見る者を画面に釘付けにさせる。
 自動車に乗っているときと、よその町へドライブに出かけたときだけが気がねなく会話できる唯一の時間となって、自動車でのシーンが重要な映画となった。
 不自然でぎくしゃくして、行き当たりばったりのストーリー展開で、とても有名作家の脚本とは思えない部分もありながら、なぜかこの映画は異常に面白い。
 カーク・ダグラスのぎらぎらしたセックス・アピールがうっとうしくもあるが、やはり息子のマイケル・ダグラスよりはすぐれた俳優であるようだ。不気味な隣人を演じるウォルター・マッソーと並ぶと、存在感の密度のようなもの、硬質なイメージが他の役者とはぜんぜん違って見える。
 結局のところ、このありふれた不倫映画がなぜ面白いのかはよくわからないままだった。

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★ 『ファインド・アウト』

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2012年。アメリカ。"GONE".
  エイトール・ダリア監督。アリソン・バーネット脚本。
 アマンダ・セイフライドが誰からも信じてもらえずに、孤立無援で失踪した妹のゆくえを捜し出そうとするミステリー映画。
 妹がいなくなった途端に、警察署に駆けつけて騒ぎ立てる様子からすでに観客はアマンダ・セイフライドを疑わしく思い始める。その後も彼女は人にうそをつくのに慣れている様子が示されて、ますます信用出来なくなる。
 このヒロインの言っていることや行動をうかつに信じてはダメだという描写があまりに多すぎるので、これはやっぱりヒロインは実は本当のことを言っているのかも知れない、というサスペンス映画の定石に従った映画なのか、という印象が次第に強くなってきた。

 面白くなりそうでそうならない、もどかしさの残る映画だったが、製作スタッフが目指そうとしたものは何となく想像できる。想像通りに作られていたならば隠れた傑作だという評判がなされただろうが、緊張感に欠けたエピソードがだらだらと連続するので、謎解きの面白さやスリラー映画の楽しみは脇に置いておいて、
 この作品が撮影されたオレゴン州のポートランドという街の、住み心地の良さそうな雰囲気を楽しむに限る。風光明媚な森林公園もあり、緑が多く、全体にクリーンなイメージがある。環境にやさしい都市としては、世界第2位の評価を受けているほどに素晴らしい街のようだ。
 サスペンス映画の舞台にはふさわしくない感じだが、警察署のピリピリしたムードの皆無な感じがポートランドの持ち味だったのかも知れない。
 収入はそんなに多くなくてものんびり暮らしていけそうな土地柄もありそうだ、登場人物にそういうキャラクターが多かったせいもある。

 配役が意外に豪華な印象があるのは、日本でよく知られた俳優が多く出演している局地的な感覚だろう。ジェニファー・カーペンターにキャサリン・メーニッヒ、ウェス・ベントリーにダニエル・サンジャタ、マイケル・パレなど映画よりもテレビで活躍している俳優が多く出演している。
 ヒロインの同僚を演じるジェニファー・カーペンターの宝塚みたいな男っぽい女性のカッコよさ、
 男っぽい女性の第一人者であったはずのキャサリン・メーニッヒがずいぶん老けたなあ、などと感慨にふけったりと、それなりに楽しみはある映画だった。
    IMDB        公式サイト(日本)
映画の感想文日記-findout01
 大学の試験前で重要な時期のはずの妹モリー(エミリー・ウィッカーシャム)がある朝突然いなくなった。深夜のレストランで働いているジル(アマンダ・セイフライド)が帰宅してみると、明らかに不審なところがあった。
 しかし、ジルは過去に精神科病棟に入れられていたことがあり、現在も向精神薬を服用しながら生活している。
 1年前に何者かに拉致監禁されたが何とか逃亡してきたと言って警察に捜査してもらったが、彼女の妄想に過ぎないとして処理されてしまった経緯があるので、警察も彼女を素直に信じることはせず、またかという対応をする。

 アマンダ・セイフライドのメンタルに問題をかかえた女性への役作りが見事で、さらに会う人ごとにうそをついてばかりいるので、見ていると本当にいらいらしてきて、ヒロインに感情移入する余地はゼロになり、結局はすべて彼女の妄想で実は妹を殺しているんじゃないのか、という気になってくる。
 警察が追跡するのは危険人物だとみなされたヒロインのジルなので、そういう方向でサスペンスが盛り上がればもうちょっと面白い作品になりそうな予感はあった。
 アマンダ・セイフライド本人にとってはキャリア上の汚点になってしまうのかも知れないが、今年も出演作が他に3本あり、出演予定の映画も10本くらいある忙しさで、この先数年間はアマンダ・セイフライドの映像を見続けることになりそうだ。アマンダ・セイフライド、いまだにつかみどころのない印象のある女優で、サスペンス映画のヒロインがふさわしい印象はあるが、本人は『レ・ミゼラブル』みたいな作品を好んでいるようだ。女子人気は高いが果たしてアメリカ本国でも男性ファンがいるのかどうか、日本だと栗山千明とか井上真央あたりに近いのかも知れない。

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★ 『きっと、うまくいく』

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2009年。インド。"3 IDIOTS".
  ラージクマール・ヒラニ監督・脚本。
 田舎から出てきたらしき新入生が大学の門をくぐり、晴れがましい気分に包まれる光景を見ながら、ジェイソン・ビッグスとミーナ・スヴァーリが光り輝いていた『恋は負けない』(2000年)を想い出した。
 この映画のアメリカナイズ度の意外な高さを感じながら、『アメリカン・パイ』(1999年)が世界中の若者たちに与えた影響の大きさを改めて実感した。
 『アメリカン・パイ』から10年後に製作されたこのインド映画は、ジョン・セイルズの『セコーカス・セブン』(1980年)みたいに大学時代から10年後に仲間たちが再会する、という「再会映画」のかたちで作られている。
 喜怒哀楽の感情がめまぐるしく移り変わる激しさは、ローレンス・カスダンの『再会の時』(1983年)みたいなセンチメンタルさを基調にしながら、お笑いの要素とシビアな現実の描写が混じり合っていて、『アメリカン・パイ』と『セコーカス・セブン』を同時に見るような不思議な感覚におちいる。

 『セコーカス・セブン』みたいな胸に迫る感動、切なさがある一方で、『アメリカン・パイ』シリーズ(1999年~2013年)の下世話な笑いもちょこちょこと入り込んでくる。
 何かとんでもない映画を見た、という感じは『パキスタン・ゾンビ』(2006年)を見たときの不思議な感動に近い。
 主人公の顔がインド版のトビー・マグワイアか妻夫木聡を想わせる点が『パキスタン・ゾンビ』のパキスタン版のトビー・マグワイアみたいな主人公を連想させただけかも知れない。

 経済とともにポップ文化の発展も猛速度という印象があるインドならではの物語で、つじつま合わせや構成のバランスなどより、どうにも止められない勢いにすべてを委ねるという作り方は経済成長国だけが可能にさせるうらやましい製作スタイルだった。
    IMDB        公式サイト(日本)
映画の感想文日記-idiots001
 主人公を筆頭に登場する俳優が本当はいったい何歳くらいなのか、さっぱりわからない(外国人が日本人を見ても同じ事を言われるのだが)のも変てこな印象を強めていた。
 妻夫木聡とトビー・マグワイアをミックスさせたような主人公ランチョーを演じる俳優だけはそこそこ若そうだと思ったら、アミール・カーンというこのインドの大スターらしき俳優は撮影当時は44歳くらいだった計算になる。
 44歳で18歳を演じるのはあまりに無茶だが、何も違和感を感じなかったことからも、いかにインドのことを何も知らないかと実感した。
映画の感想文日記-idiots002
 3時間はさすがに長いと感じた。ミュージカル場面を省いたら2時間ちょっとくらいの映画だったが、本国では実際はもっと長い完全版が存在するのかも知れない。
 最初はアメリカ映画のハイセンスな音楽に慣れた耳にはダサく感じられた音楽が歌が始まったとたんにその美しさに打ちのめされたような気分になった。
 R&Bもハウスもテクノも包み込む包容力があるような美声で物語られる音楽の素晴らしさ、
 そういえばスパイク・リーの『インサイド・マン』(2006年)が公開されていた頃は、毎日「チャイヤ・チャイヤ」という映画の冒頭で使われていたボリウッドの曲を聴いていたものだった。
映画の感想文日記-idiots003
 ボリウッド映画がまとめて公開されているが、『闇の帝王DON ベルリン強奪作戦』という作品が気になる。

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★ 『デスカメラ』

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2011年。カナダ。"SKEW".
  セヴェ・シェレンツ監督・脚本・製作・撮影・編集。
 どうせつまらないと思いつつも、つい時々見てしまう主観ショットのホラー映画で、数人のスタッフで製作されたカナダ産の作品。
 カナダ産というところに興味を持った。ホラー映画には本人たちの自覚がないままに、その土地の人間が何に恐怖を感じてしまうのかが反映されるので、よく知らない地域のことを知るときに、ホラー映画が紀行文ではわからない地域の感情を拾い上げる、ということもある。

 それにしても地味な作品だった。友人の結婚式に行くために3人で自動車旅行をする話なので、カナダ在住の地味な若者たちのロードムービーだと思って見ると、何かしらの楽しみはあるかも知れない、と思っていると、カメラを持っているサイモンという青年がなぜカメラを手離せないかの説明がくどくどと続いて、ちょっとウンザリさせられる。
 人が死んだり、殺人事件や大事故が起こったりするが、その場面が映し出されることはない。新聞記事のアップが映ったり、警察官の話で知ったりするだけで、映像だけを見ていると、人間関係のギクシャクした3人の若者が旅行しているだけのことにしか見えない。

 ホラーの効果としては、カメラに映った映像の顔がゆがんでいると、その人はその後事故にあったり、殺人事件に巻き込まれて死んだりする。それがなぜなのかの説明はないが、どうやらカメラに邪悪な何かがありそうなほのめかしはあった。
 サイモンという青年の寂しい少年時代のエピソードにも関わりがありそうだった。
 カナダの若者は無神論がデフォルトであるらしいこと、感情の起伏がアメリカ人より穏やかな印象で、怒っても優しげに見える、常にビールは手離せないらしいこと、自動車はでかくて排気量の多いものを好む、などがこの作品からうかがい知れたカナダのローカルな特性だった。
       IMDB
映画の感想文日記-skew01
 リッチ(リチャード・オラク)と恋人のエヴァ(アンバー・ルイス)とサイモン(ロブ・スカッターグッド、撮影も担当)の3人は友人の結婚式のために1993年式のグランド・チェロキーをリッチの父親から借りて、自動車旅行の旅に出る。
 鉄道よりも高速道路の発達が優位にあるようで、遠出には自動車が優先するようだった。どの場所からどの場所への移動だったのかがよくわからなかった。地名が出てこなかったような気がする。
 サイモンは恋人のローラとはうまくいっていない様子で、ローラは同行しないことが一応物語の伏線になってはいた。カメラを持っているサイモンは結局ほとんど画面には映らない。一瞬だけぼんやり映る場面があった。
映画の感想文日記-skew03
 長距離旅行なので、ときどき観光地に立ち寄って珍しいものにカメラを向ける。車の窓の外の流れ去る風景や、ガソリンスタンドやドライブ・イン、モーテルやコンビニなどの空間の広さ、あちこちに見られる緑の木々の多さなどで多少の旅気分を味わうことが出来ないこともない。
映画の感想文日記-skew02
 エヴァは生化学のエンジニアを目指して勉強中、他の二人の職業は何か記憶にない。大学を卒業して数年たったところで定職には就いていないのかも知れない。車を父親から借りるくらいだから、経済的に自立はしていないのだろう。
 サイモンが恋人のローラよりもエヴァにひそかに恋しているらしいことが、三角関係を生み出して後に波乱を引き起こす。
 エヴァ役の女優が撮影中に妊娠、出産をしたらしく、長期間待たされて完成に手間取ったらしい。
映画の感想文日記-skew04
 ホラー度数は限りなくゼロに近い。Jホラーの恐ろしさを基準にすると、これは単なるアマチュアカメラマンの旅行フィルムに等しいくらいだった。あまりに申し訳ないと思ったのか、一瞬だけサイモンの恋人ローラの亡霊みたいな姿が映ったりした。
 ただし、ローラには何度も電話をかけたりしているので、死んではいないはずだったが、最後の巻き戻し映像に映ったローラの顔はゆがんでいたようだったので、実は死んでいたのか、IMDBにも最後はどういう意味か、結局どうなったのかなど質問が殺到している。
 監督の頭の中には完結した物語があるようだが、それをあいまいにすることで何らかの効果を狙ったものだと思われる。
 やはり、カメラといえば、『デスカメラ』ではなく、マイケル・パウエル監督の『血を吸うカメラ』に限る、と思ったことだった。

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★ 『マニアック』

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2012年。フランス/アメリカ。"MANIAC".
  フランク・カルフン監督。アレクサンドル・アジャ製作。
 カルトホラー映画、『マニアック』(1980年)をイライジャ・ウッド主演でリメイクした作品。
 監督と製作はスリラー映画の傑作、『P2』のコンビなのでちょっと期待させられた。
 この監督と製作者のすぐれた点はヒロインの選び方とキャスティング能力の高さにあって、『ハイテンション』のセシル・ドゥ・フランスや『P2』のレイチェル・ニコルズなど、製作当時はそれほど有名でもなく出演料も安かったと思われる女優を主演にもってきて、その後その女優たちが過去にホラー映画に出ていたとは信じられないほどにブレイクして有名になっている。
 今回は『幸せはシャンソニア劇場から』のノラ・アルネゼデールがヒロインを演じる。社交界で羨望のまなざしで見つめられるようなリュミエール賞受賞者ですでにスターである点がこれまでとは異例だ。「ホラーなんかに出るわけないでしょ。」と言い出しそうだが、ちゃんとハードコアな血まみれホラー映画の世界へ引っぱり出して来たスタッフの営業能力がこの作品の一番の驚きかも知れない。

 ノラ・アルネゼデールが演じる写真家アンナの、育ちが良くて、鋭い知性をもち、お金持ちだがお金にはまるで興味がない、豊かな人間関係の中にいつもいる、という非の打ちどころのなさは、演じているというより、ふだんのノラ・アルネゼデールの延長線上にあるに違いないと思ってしまう自然体の演技で、それがこのちょっと不気味な映画を品の良いものにしていた。

 深夜のロサンジェルスが舞台なのでノワールの雰囲気も多少あって、地下鉄の車内風景や誰もいない深夜のプラットホーム、人影のない商店街など繰り返しホラーの舞台となってきた景色も奇妙に新鮮に感じるときがあった。カメラマンが素晴らしいのか、撮影対象である深夜のロサンジェルスが持つ魅力を引き出した場所の選び方が良かったのか、どちらにしろホラーというより探偵映画が始まりそうな雰囲気の夜のロサンジェルスの風景は良かった。

 映画の中で流される血の量はクリスチャン・ベール主演の『アメリカン・サイコ』(2000年)と一緒くらいの印象があった。イメージはグロテスクだが意外と上品な画面である点が『ホステル』などの本物のグロテスク映画とは違っていたようだ。

 オリジナルの『マニアック』は相当にグロテスクだった印象はあるが、ほとんど記憶にない、VHSのビデオテープで見たはずだが、見直そうにもDVDは廃盤で高額で取引されている。
 ホラー映画の歴史を扱った本などではたびたび取り上げられている作品で、確か『パキスタン・ゾンビ』の監督が経営するレストランにもこの映画のポスターが神聖なものであるかのように展示されていた。このリメイク自体がアレクサンドル・アジャの夢の企画だったようだが、それほどに世界のホラー愛好家に大切にされている作品なら見直してみると面白いのかも知れない。
     IMDB          公式サイト(日本)
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 この映画の価値はイライジャ・ウッド主演という点よりも、ノラ・アルネゼデール主演という点に発生しているようだ。実際に彼女とフランク(E・ウッド)が出会ってからのエピソードが始まると、そのまま恋愛ドラマに変容してもおかしくない瞬間がたびたびやってくる。
 1989年パリ出身、AKB48の初期メンバーとほぼ同世代である。『クロユリ団地』の前田敦子とは同時代に生きる女優として共鳴する存在であるはずだ。
 身長170センチ、篠田麻里子より少し大きいくらいか。体力があり、動作も機敏で運動神経は相当ありそうに見える。実際に後半の格闘シーンでフランクと争う場面では、本気を出したらイライジャ・ウッドより強そうに見えた。アクション映画でも主演が務まりそうな気がする。

 映画は主観ショットがメインで時々第三者視点に切り替わるという構成のため、主演のはずのイライジャ・ウッドの顔はあまり映らない。
 その結果、観客が意識するのはカメラの手前にいる製作スタッフの存在で、カメラマンはノラ・アルネゼデールに恋していたのかも知れない。
映画の感想文日記-maniac201302
 シリアルキラーのフランクを演じるイライジャ・ウッドの積極的に演技に没頭している感じがときどきうっとうしく思われる場面もあった。主観ショット中心だが、ときどき鏡に映ったりする場面での哀しげな表情の作りこみがやり過ぎていると見えてしまう。『デイ・ゼロ』で自殺する青年を演じていたときと同じくらいにやり過ぎている。自らホラー映画プロダクションを設立するほどのホラーマニアであるための積極性なのだろう。
 恋愛コメディ映画で脇役を演じると、控えめで印象深い演技を見せる、本人にはそういう自覚はないようで、今後も積極的にホラー映画に出演したりプロデュースしたりする予定がある。

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★ 『ダークスカイズ』

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2013年。アメリカ。"Dark Skies".
  スコット・スチュワート監督・脚本。ジェイソン・ブラム製作。
 郊外住宅地に暮らすかつては裕福だった家族が、リーマンショックの直撃を受けて苦境に立たされた。父親の失業による家族の心理的ストレスは子どもたちにも悪い影響を与え始め、子どもたちは悪夢にうなされるようになり、家の中でも奇妙な怪奇現象が起こり始める。
 母親は筋肉が引きつる発作を起こし、父親は夢遊病で苦しむ。家族の間の関係の悪化が昂進していき、バラバラになってしまうかと思われた家族はある出来事を契機に再び強い絆を取り戻していく、という愛の物語。
 一応は怪奇SFホラー映画のジャンルに分類されるが、これは家族の愛の意味を問う物語だといったほうが正確に思える。

 ホラー映画で感動して心を揺さぶられる、という事は時々起こることなので珍しくはないが、これは格別に素晴らしかった。『インシディアス』(2010年)のスタッフによる作品だというので納得する部分もあったが、監督はジェームズ・ワンではない。よってユーモアの要素はほとんど目立たなくなってしまっている。笑える場面も少ない。ユーロホラーへの目配せなどどこにもない。
 その代わりに濃厚なヒューマンドラマの要素が前面に押し出されてきた。これはこれで悪くない。
 何か似ている映画を探すとすれば、第一番目に似ている映画はポール・トマス・アンダーソンの『マグノリア』(1999年)かも知れない。しばらく前に流行したサバービア映画のジャンルに属する作品のひとつなので共通点も少なくない。
 サバービア映画の佳作、ケイト・ウィンスレットとジェニファー・コネリー出演の『リトル・チルドレン』(2006年)にも少し似ている。

 この映画が素晴らしく感動的だったのは、2013年の不況時代のアメリカ合衆国の国民の物語として作られているところで、誰かアメリカのことを知らない人に、「アメリカとはどんな国ですか?」と尋ねられたら、「『ダークスカイズ』という映画を見てください。その中にはアメリカ合衆国のすべての物語がぎっしりと詰めこまれています。」と答える事が出来る。
 インド映画の『きっと、うまくいく』(2009年)とは正反対の映画で、タイトルをつけるとすれば、『どうせ、全部が駄目になる』というネガティブなものにしかならないが、それがアメリカ合衆国の物語なのでどうすることも出来ない。
 明るい未来など想像する事も不可能になったアメリカで、それでも郊外住宅地の家族は愛によって生き延びようとする、美しすぎるホラー映画の傑作がここに誕生した。

 スピルバーグの『未知との遭遇』(1977年)を2013年に語りなおした映画としても見る事が出来る。『未知との遭遇』にはあった夢や希望、未来へのわくわくする感覚、それらのすべてが消滅した世界、それが2013年のアメリカであり、映画の中でも触れられていたように、これから夢や希望、未来を考えてわくわくするのはインドと中国以外には存在できないという絶望の中で、どうにかして生き延びる道を必死で探し回る、それが心を震わせる愛のホラー映画、『ダークスカイズ』だった。
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$映画の感想文日記-skies001
 怖がらせようとする宣伝がされているが、実は全然怖くないのが『ダークスカイズ』の弱点でもある。しかし、「こんなインチキ『X-ファイル』もどき映画、詐欺だぜ!」と怖くなさに文句をつけようとした観客も、美しい愛の物語を眼の前にして、あふれ出る涙をぬぐいながら、「私が間違っていました。この愛の物語に文句を言うなんて、そんなこと不可能ですよ。」と跪いてざんげしようとするに違いない。

 『ウェイトレス~おいしい人生の作り方』(2006年)のケリー・ラッセルと『ブロークン・イングリッシュ』(2007年)のジョシュ・ハミルトンが演じる夫婦は『インシディアス』のパトリック・ウィルソンとローズ・バーンの夫婦よりも感動的に美しく、2013年度の合衆国の代表カップルと呼びたくなるほどだった。



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★ 『エンド・オブ・ホワイトハウス』

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2013年。アメリカ。"Olympus Has Fallen".
  アントワーン・フークア監督・製作。
 強さと繊細さをあわせ持った俳優として恋愛映画への出演も多い俳優、ジェラルド・バトラーとアーロン・エッカートが共演する。二人ともロマンティック・コメディへの出演もいくつかある。
 似たようなキャラクターを演じることも多く共通点もある俳優が同じ映画に出演するとなると、危惧されることがある。これまでは単独で主演をしていた二人が同じ画面に映るとなると、どちらかが不利益を被るのではないのか、と思っていたら、アーロン・エッカートが被害を受けていたように見えた。
 しかし、この映画はジェラルド・バトラーの製作会社も参加している企画なので、アーロン・エッカートは合衆国大統領を演じさせてもらえるからと、一歩身を引いてジェラルド・バトラーを輝かせる役割に徹したのだろう。

 ジェラルド・バトラーにはヒット作は多いが、個人的には『Dear フランキー』のにせ船乗りのイメージであり続けている。あの作品で見せた誠実さや心優しさ、繊細さがジェラルド・バトラーという名前から付きまとって離れない。
 作品自体の出来はいまいちだったが、『P.S.アイラヴユー』での暖かいまなざしも忘れがたい。いい人しか演じられないという弱点を克服しようとしたのか、いろいろな役柄に挑戦はしてきているが、これという決定的な役柄はまだないようだ。
 今回の『24』を映画化するとすれば、こういうやり方になるのだろうと思われる作品に出た後でも、いまだに『Dear フランキー』の船乗りのままにいる。

 この映画でもっとも驚いたのは、アーロン・エッカートが大統領を演じていたことだった。『エリン・ブロコビッチ』での、ジュリア・ロバーツの恋人役のヘルズ・エンジェルズみたいなバイカー役がついこの前だったような気がしていたが、あれからもう13年の歳月が流れていたのだった。
 人は映画の中の俳優の姿を見て、自分の年齢を再確認するという役割も映画にはある。アーロン・エッカートは上手に年齢を重ねていっているが、果たして自分はどうなのか、と考えをめぐらせるきっかけにもなる。

 ジョン・ミリアスの『若き勇者たち』みたいなとんでもない映画かと思ったら、反体制的な物語の『ザ・シューター/極大射程』を娯楽アクション映画に仕上げてみせたアントワーン・フークア監督は、バランス良く、『合衆国最後の日』と『24』と『ダイ・ハード』の第一作目とをミックスしたような面白さを目指していたようだった。
 が、『24』の最初のシリーズのころの面白さには及ばなかったような気がした。『合衆国最後の日』には遠く及ばない。
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映画の感想文日記-olympus001
 初めのエピソードで描かれるテロリストたちは計算されつくした行動と無敵の強さを誇っていたので、ジェラルド・バトラーが入り込むすきなどないように思われたのが、簡単に侵入できてあっけなかったが、その後もジェラルド・バトラーがあまりにも強すぎるので、ハラハラする場面がほとんどなかったのが、サスペンスの要素を減殺してしまったように映る。

 ジャック・バウワーにはもうちょっと危なっかしくて強引な所があった。ジョン・マクレーンにあったユーモアの要素も少ないので、マイク・バニング(ジェラルド・バトラー)がもうひとつ魅力的に映らない。
映画の感想文日記-olympus002
 娯楽アクション映画は物語を盛り上げるために悪役を強く魅力的に見せなければならない。結果的にアメリカ映画でおそらく初めて「カッコいい北朝鮮」が描かれた。
 リック・ユーン演じる無敵のテロリストは健闘していたが、格闘シーンを演じるリック・ユーンの鍛えられた肉体の身のこなしを見ながら、これは須藤元気が演じるべきキャラクターではなかっただろうか、と思ったりした。
 映画版の『仮面ライダー』で悪役を演じたり、スーツ姿でCMに出たりしている須藤元気がこのテロリスト役を演じていたら、よりアクションの切れ味が鋭くなり、憎らしさやわけのわからない魅力も増していたのではないか、という気がする。期せずしてユーモアが発生する余地もあっただろう。

 『ジャッキー・ブラウン』での好演が印象深いロバート・フォスターが最盛期のアーネスト・ボーグナインみたいな存在感を発揮する悪役を演じていたのが面白かった。
 チョイ役ながら映画のグレードアップの役割を果たしたアシュレイ・ジャッドやメリッサ・レオなども印象に残る。

 今年は『ホワイトハウス・ダウン』というチャニング・テイタム主演の映画も公開されるし、ジョン・ミリアス監督の怪奇な傑作、『若き勇者たち』(1984年)のリメイク映画まで公開されるようだ。
 ソビエト連邦を怖れるあまりに気が変になった国粋主義右翼が泣きながら作ったような『若き勇者たち』の変てこりんな魅力がどのように再現されているのか気になるが、『マイティ・ソー』のクリス・ヘムズワースが主演なので期待は出来ないような気がする。

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★ 『ハングオーバー!!! 最後の反省会』

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2013年。アメリカ。"The Hangover part Ⅲ".
  トッド・フィリップス監督・製作・脚本。
 完結編だとされる第三作目が終わろうとして、エンドクレジットの後に再び出現する悪夢の再来を見て、何だ!第四作目がすでに始まっているじゃないか、と一瞬思ったが、これは製作者がいよいよこの連作映画が終わってしまうことへの名残惜しさをごまかすための、照れ隠しのようなものなのだろう。

 それほど熱中して見てきたシリーズでもないので、大して感慨もないだろうと思ったら、最後にザック・ガリフィアナキス演じるアランが、人生に立ち向かっていく決意を胸に秘めながら、お祭りはもう終わったのだということを知った男の微笑を浮かべていることに感銘を受けて、何かが終わるのはやはり寂しいものだとしんみりした気分になった。最後のおまけは多くの観客がそういう気分のまま帰ってもらっては困ると考えた製作者の精いっぱいのサービスでもある。

 しかし、そういうサービスにこそ寂しさを感じたりすることもある。寂しさはともかく、いつの間にか大スターになっていたブラッドリー・クーパー以外のメンバーは、この先ちゃんと仕事があるのだろうか、と要らない心配さえしたくなるほどに地味な俳優ばかりが出演していた作品だった。
 ジャスティン・バーサはこのシリーズに出演する前からコメディを中心に活躍していたし、ケン・チョンはアジア系の俳優の中で一定の地位を獲得したので心配は要らないにしても、歯科医のステュを演じていたエド・ヘルムスが今後このシリーズ以上の当たり役を手にするまでには相当の困難が想像される。
 などと思っていたら、IMDBには今後の出演予定作品がぎっしり並んでいた。
 このシリーズの最大のスターだったザック・ガリフィアナキスは『バベル』の監督が製作するコメディにエドワード・ノートンやエマ・ストーンなどと出演する予定のようだ。
 もっとも先行き不透明で不安が大きいのはトッド・フィリップス監督に違いない。

 素晴らしかった第一作目と並べると、第二作目の印象がほとんどないことに気づいた。ポール・ジアマッティの悪人役が悪人に見えなかったのが弱かったのだろうか。今回の悪役、ジョン・グッドマンも名前の通りに良い人にしか見えない。
 しかし、今回の作品にある陰惨さは不思議な印象を与える。コメディなのに大勢人が死ぬ映画には、『21ジャンプストリート』もあったが、死に方にユーモアが欠けているような気がする。ケン・チョンが演じるミスター・チャウもギャングスターとしての出自を明らかに示す場面では情け容赦がない。
 ケン・チョンがナイン・インチ・ネイルズの『ハート』を熱唱するおかしな場面もあった。あれはナイン・インチ・ネイルズのカバーではなく、それをカバーしたジョニー・キャッシュのカバーだったのかも知れない。
 陰惨さとお笑いが同居している居心地の悪い感覚は1970年代のアクション映画っぽくもあり、面白かった。
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 オープニングで『ショーシャンクの空に』や『アルカトラズからの脱出』などのへたくそなパロディっぽい場面からミスター・チャウの脱走シーンが始まり、
 キリンの輸送シーンの黒い笑いへとつながるあたりから、この完結篇は当たり障りのある笑いにシフトした映画だということを見せていた。大勢の人が無造作に死んでいくのも、その流れの中では自然なことだとも思った。

 途中で『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』のメリッサ・マッカーシーが運命の女性として登場してきた場面では、ザック・ガリフィアナキスの画面を支配する力に対抗できるのはこの女性しかいないに違いない、とパズルのピースの全部がつながってくるような心地よい感覚に包まれた。
 今後この映画の出演者やスタッフがジャド・アパトー一派と交流していく前ぶれになるのかも知れない。



 
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★ 『飛び出す 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲3D』

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2013年。アメリカ。"TEXAS CHAINSAW 3D".
  ジョン・ラッセンホップ監督。
 『悪魔のいけにえ』の第2作目以降はなかったことにして、第1作目の続きの物語を語りなおした3Dバージョンのびっくりホラー映画。
 この監督は『テイカーズ』という面白い犯罪アクション映画を演出しており、よく出来たVシネマの秀作といった印象があった。『テイカーズ』でも見られたロマンチスト気質がこの作品にもあらわれていて、元々はただのインディーズ映画だった『悪魔のいけにえ』をロマンチックな叙事詩にしようと努力した形跡が見られる。

 第1作目が発表されたのは1974年だが、あの映画がいつの時代を舞台にしていたのかよくわからない。おそらく同時代の出来事として語られていたと思うが、それから20年後の物語になっている。ということは1994年あたりになる、なぜそんな中途半端な時代設定になっているのかには、やむを得ない事情があるにしても、いろいろ強引な語り口の目立つ映画だった。

 しかし、『悪魔のいけにえ』が3Dで劇場で体験できるということは、最初で最後の機会だろう。電動のこぎりをガソリンエンジンで回転させるときの音が『悪魔のいけにえ』の魅力のポイントであるということを作り手は良く理解していて、チェーンソーの音の扱い方にもこだわりが感じられた。
 美術やセットの造形にも『悪魔のいけにえ』への畏敬の念が込められていて、あの映画をゴシック・ロマンスのひとつとして考えているらしいことが伝わってくる。

 しかし、いろいろなこだわりが感じられる割には、『悪魔のいけにえ』にあったどろどろしたテキサスの何が起こってもおかしくない、というゴシックロマンス的なムードが足りなかったような画面になっていた。
 フィルムやカメラや3D技術の発達が暗闇や薄暗い場面でもクリーンに映し出してしまうことの影響もあったのかも知れない。プロの演出家であるからそういう事態は意識していたのだろうが、それでもちょっと物足りなさを感じた。
 その分はR-18指定ならではのスプラッター・ホラー演出で悪人どもをやっつけるレザーフェイスの活躍(途中からレザーフェイスが正義の戦士と化してしまう)の爽快感がカバーしている。

 オープニングで第1作目のフィルムが使われていて期待が高まった。そこでわくわくした気持ちにさせてもらえただけでもありがたいと思う。オープニングだけでわくわくする映画なんてめったにあるものではない。
 その後に続く大虐殺の場面がロブ・ゾンビの『デビルズ・リジェクト』に似ている。ロブ・ゾンビのアマチュアっぽい演出と比べると、さすがに職人監督らしい手際の良さが見られて、この映画は大傑作になるのかも知れない、と一瞬思った。
 『デビルズ・リジェクト』はへたな演出のままに突っ走って、それなりに奇妙な感動を作り出していたが、この監督は手際は良くても少し切れ味がにぶい。『テイカーズ』でも見られた物語る力の弱さのようなものがこの作品を傑作と呼ぶことにためらいを感じさせる出来栄えにしてしまったような気がする。

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 ヒロインのヘザーを演じるのはアレクサンドラ・ダダリオという『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(見ていない)で有名な女優らしい。
 20歳の若者たちが犠牲にならないとホラー映画が成立しないので、20年後という設定にされていたのだった。いけにえになる若者たちには、『スリル 少女たちの危険なアクセス』という意外と面白かったサスペンス映画に出ていたタニア・レイモンドや、トレイ・ソングスというR&B歌手、クリント・イーストウッドの息子、スコット・イーストウッドも出演しているなど、興味深いキャストがそろっている。
 クリント・イーストウッドには一体子どもが何人いるのか、ジョン・キューザックと交際していた何番目かの娘や、『グラン・トリノ』の音楽を担当していた息子、他にも社交界で有名な子どもがいたようだったが、スコット君はクズ野郎の役柄を楽しそうに演じていて好感が持てる青年だった。

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 レザーフェイス役ではないが初代レザーフェイスのガンナー・ハンセン氏もゲストとして特別出演している。『悪魔のいけにえ』で一人だけ生き延びる娘を演じたマリリン・バーンズがヒロインのヘザーの祖母の役で出演するなど、いろいろ見どころの多い映画で、アトラクション映画としては最高のものだった。
 『ソウ ザ・ファイナル3D』みたいに、企画段階から3Dを前提に構想されていたようで、セットや美術、登場人物の移動などが3Dの効果を引き出すように工夫されており、飛び出すというより良く考えられた画面だった。最後にチェーンソーが飛び出すサービスにもおこたりがない。

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★ 『サイレントヒル:リベレーション3D』

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2012年。仏/米/カナダ。"Silent Hill: Revelation 3D".
  マイケル・J・バセット監督・脚本。
 前作の『サイレントヒル』が2006年に公開されたときのことは良くおぼえている。ウディ・アレンの『メリンダとメリンダ』に主演していたラダ・ミッチェルが出演するホラー映画だというので、期待して見に行ったものの、途中でいつの間にか寝入ってしまい、霧に包まれた町の看板のイメージ以外には何も記憶にない映画だった。デヴィッド・リンチのテレビドラマ、『ツインピークス』を一段とつまらなくしたらこんな映画になるのかも知れない、と眠りながらぼんやり思ったことを記憶している。

 しかし、今回は3D映画なので、うかつには寝させてもらえない眼鏡器具を装着してからの鑑賞となる。途中で寝たくなったら、『華麗なるギャツビー』のときのように眼鏡をはずして目を閉じれば良い。すると大音量で音楽がかけられているクラブ空間で居心地の良い椅子に腰かけて眠りに就くような不思議な心地よさを経験することが出来る。
 今回のヒロインは『華麗なるギャツビー』にも出ていたアデレイド・クレメンス嬢だが、どの場面に出ていたのか記憶にない。おそらく年齢相応の役柄でまったく別人のようなメイクで登場していたのだろう。
 この作品での年齢は17歳くらいの設定だが、実際のクレメンス嬢は23歳の大人の女性で、期待される女優のひとりらしい。「守ってあげたい」と想わせる可憐さ、かわいらしさを23歳になっても維持しているのは素晴らしいが、顔の造作が特別に美しいわけでもないので、25歳を過ぎたあたりから女優としての転機が訪れるか、徐々にフェイドアウトしてしまうような気がする。
 しかし、この映画に限ればアデレイド・クレメンス嬢のこれが人生の最後になるかも知れない可憐な美しさは光り輝いており、それが3Dで記録されるとは幸運な女優であるに違いない。

 アデレイド・クレメンス嬢とキット・ハリントン演じるヴィンセントとの『ロミオとジュリエット』みたいな許されざるロマンスがこの映画の核心となっている。
 いくつかのシェイクスピア劇の要素をいったんバラバラにしてパズルのように組み合わせてみた、がうまく組み合わせられなかった、というしょぼくれたストーリーだが、監督と脚本を担当したマイケル・J・バセット君は実は12歳の中学生である、とでも思えば納得できる。
 この作品を何とか見させることが出来たのは、アデレイド・クレメンス嬢とキット・ハリントンの二人が演じていた恋愛劇の、破滅型の青春映画みたいな雰囲気にあった。
 愛する不良少女を救うために、殺されるとわかっていながらかつてのボスのもとへと向かう不良少年の心意気に感動しながら、
 クロエ・グレース・モレッツが出演していたベストコーストの『OUR DEAL』のプロモーション・ビデオを連想した。クロエ・モレッツとタイラー・ポージーが演じていた恋人たちと、アデレイド・クレメンス嬢とキット・ハリントンの二人のチンピラっぽさがどことなく似ていたからかも知れない。
 『OUR DEAL』はドリュー・バリモアが監督していたが、この『サイレントヒル:リベレーション3D』もドリュー・バリモアが監督していたら傑作となり得たに違いない。
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 第1作目にもあったグラン・ギニョルの影響下にあるようなフレンチ・ホラーっぽさとデヴィッド・リンチの真似っこっぽさは今回も受け継がれている。
 この映画の3D表現を見ながら、デヴィッド・リンチも3D映画を作れば良いのに、とどうでもいいことを考えた。『ロスト・ハイウェイ』や『インランド・エンパイア』、『マルホランド・ドライヴ』の3Dバージョンを見てみたい。

 配役にも少し面白い所があった。キャリー・アン・モス、ラダ・ミッチェル、マルコム・マクダウェル、デボラ・カーラ・アンガー、などかつて一瞬だけ栄光の時を持ったが、その後は安い映画専門俳優と化してしまった低賃金の俳優が総出演している。ショーン・ビーンは好きな俳優だが、ラダ・ミッチェルと同類であることには違いない。
 ヘザー(アデレイド・クレメンス)とヴィンセント(キット・ハリントン)との薄幸そうなカップルの前途にかすかにでも光が射すことを祈らずにはいられない。

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 新たなるスクリーム・クイーンの有力候補のひとりでもある、アデレイド・クレメンス嬢のもって生まれた品の良さはホラーやスリラー映画では美点となる。身長が自称175センチ(実際は180センチ前後ありそうに見える)と共演する男優が小さく見えてしまうのがネックになるのかも知れない。キット・ハリントン(175センチはあるはず)が異常に小さく映ってしまう。

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★ 『V/H/S シンドローム』

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2013年。アメリカ。"V/H/S".  
   タイ・ウェスト、ラジオ・サイレンス、アダム・ウィンガード、その他監督。  
 ホラー映画を中心に活動する若者たち6組が集まり、創りあげたホラー映画。POVのホラーで、またか、という気分になりそうなところだったが、この作品に関しては世界各地の映画祭での前評判の高さがあった。  

 この若手の映画作家たちがコンセプチュアル・アートやフルクサス運動などをどれほど意識していたのかは不明だったが、  ホラーとPOVという流行の形式を利用した新しい芸術運動として、これまでのPOVホラー映画とは一線を画そうとする志の高さは伝わってくる。

 『ブレアウィッチ・プロジェクト』をポップアートとして再構成した、という風に見ようとすれば、見えなくもない。
  作品全体のうさん臭いチープなアートっぽさが素晴らしく、商品価値を高めている。  

 フィルム自体に宿る不吉なイメージの強さが、見てはならないものを見てしまっているのではないのか、という恐怖を募らせる。POVのホラーでこれほどに面白くて怖い作品は初めてのような気がする。サービス過剰なところもポップさにつながっている。

 スナッフ・フィルムみたいな気持ち悪さもあり、うさん臭くて恐ろしくて面白いホラー映画の新しい傑作が誕生した、と言い得るのではないかと思ったりもした。   
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 ジャック・ターナー監督の『キャット・ピープル』(1942年)を現代風にアレンジしたようなスプラッターな猫女のエピソードを見ながら、こいつらは本気でホラー映画の歴史に革命を起こそうという野望を秘めているのか、と思ったが、『キャット・ピープル』より怖くないので、それは空回りの野望に過ぎなかったのかも知れない。 

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 イーライ・ロスに見いだされて『キャビン・フィーバー2』を作ったタイ・ウェストの担当したパート、『セカンド・ハネムーン』の悪意に満ちたスプラッターなスナッフ・フィルムもどきの物語はさすがに強烈な印象を残した。タイ・ウェストはただ者ではない、近いうちにとんでもない傑作か駄作かを世に送り出すに違いない。 

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 国際的に好セールスを記録したのか、すでに第2作目も完成しており、公開も決定しているようだ。


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★ 『バチェロレッテ - あの子が結婚するなんて!』

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2012年。アメリカ。"BACHELORETTE".
  レスリー・ヘッドランド監督・脚本・原作。
 『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』の大ヒットにあやかった作品かと思ったら、オフ・ブロードウェイで大ヒットした劇をアレンジして映画化したものらしく、企画自体はこちらの方が早かったのかも知れない。
 せりふのほとんどに下ネタが大量導入されている点などは『ブライズメイズ』によく似ている。
 それと、こっちには大スターが大勢出演しているので、華やかさは優っている。キルスティン・ダンストにアイラ・フィッシャー、リジー・キャプランの美女三人が並んで深夜のニューヨークの街並みを歩く姿を見れるだけでもありがたい。
 男優陣にはほとんどスポットライトは当てられていなかったが、ジェームズ・マースデンを筆頭にちょくちょく色んな映画でみかける俳優が集められている。

 結婚に対してあせりを感じてきた年齢で突然ハイスクール時代の友人が結婚するという連絡が届いて、素直には祝福できない感情と、盛大なパーティーにしてやりたいという感情との間で揺れ動く三者三様の反応に面白味がある作品だった。
 元が舞台劇なのでせりふの気の利いたところや会話のやりとりの面白さは、字幕版で見ても吹替え版で見ても伝わりにくい部分は少なくなかったようで、貧しい英語力でもときどきは理解できる英語の表現の豊かさを感じるたびに、映画を見れるくらいの聞き取り能力は身に着けておきたかったと思った。
 
 『ブライズメイズ』みたいな思わず引いてしまうような強烈な場面はないが、ストーリーも案外平坦でやや盛り上がりに欠けるような気はした。
 3人それぞれのエピソードも時間が短くてダイジェスト版を見せられているような気分になったりもしたが、
 キルスティン・ダンストとリジー・キャプランの共演が見られただけでも100点満点の映画であることに違いはない。
          IMDB
   公式サイト(日本)

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 しっかり者で年若いがん患者のケア・マネージャーをしているレーガン(キルスティン・ダンスト)は、高校時代の親友ベッキー(レベル・ウィルソン)から彼氏にプロポーズされたと告げられる。ベッキーは高校時代に「ブタ顔」と男子から呼ばれるほどのデブスだった、最初に結婚するのは一流大卒で美人でキャリア族の自分だと思い込んでいたレーガンは内心激しく動揺する。
 それは高校時代に三人の美女として名をはせていたジェナ(リジー・キャプラン)とケイティ(アイラ・フィッシャー)も同様だった。
 『お買い物中毒な私!』の頃は新世代のラブコメの女王最有力候補と言われていたアイラ・フィッシャーだったが、何か華がなくなったように見える。演じているキャラクターのせいもあったのかも知れないが、キルスティン・ダンストの横ではやはり存在感にとぼしい。

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 常に注目してきたリジー・キャプランだったが、地道にテレビドラマなどで活動してきたことが実って、ついに堂々とした脇役女優となった。個性的な顔立ちだし、もう30歳になったので、ラブコメに限らず色んなジャンルの映画で活躍する姿を見てみたい。テレビドラマ中心の仕事になりそうな予感はある。ズーイー・デシャネルと共演している変なテレビドラマが早くDVDになることを願っている。

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 ソフィア・コッポラよりも先にスレイ・ベルズの曲を主題歌に起用した先鋭的な映画でもある。見直してみると、小ネタのギャグがいろいろ発見できそうな楽しみもある。

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★ 『彼女はパートタイムトラベラー』

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2012年。アメリカ。"Safety Not Guaranteed".
  コリン・トレボロウ監督。デレク・コノリー脚本。

 10代の頃からイケてない女子となり、つらく孤独な少女時代を過ごしたダリアス(オーブリー・プラザ)は、出版社のインターンとして働き始めた。ある日、「私と一緒にタイムトラベルをする人を募集します。」という奇妙な新聞広告の取材をするよう命令されて、先輩のジェフとインド系のパソコンおたくのアーナウとの3人で取材旅行に出発する。
 広告主のケネス(マーク・デュプラス)を突き止めて、ケネスとともに時間旅行計画に加わることに成功したダリアスだったが、ケネスは孤独な変わり者で、タイムトラベルの話も本当かうそかわからない。
 14歳の時に強盗に襲われて死んだ母親を救いたい、というはかない願いを胸にケネスと行動を共にするうちに、次第にケネスのロマンチックな時間旅行計画に魅力を感じていくダリアスだった。

 『ルビー・スパークス』と同じく『リトル・ミス・サンシャイン』の製作チームが作った作品だったが、予算は極端に少なそうで、『24』のメアリー・リン・ライスカブと『みんな私に恋をする』のクリステン・ベル以外は知らない俳優ばかりだったが、
 個人的には、『ルビー・スパークス』よりはこっちの方が良かった。

 先輩記者のジェフ(ジェイク・ジョンソン)が20年ぶりに再会した恋人と束の間のアバンチュールを楽しんだが、結局20年前と同じようにふられて泣きながら遊園地でゴーカートを走らせるシーンなど、小ネタが意外と効果的にストーリーに寄り添っている。
 恋に臆病なアーナウの初体験のエピソードはいまひとつさえなかったが。
 ラストシーンもこれで終わりなのか、というあっけなさで、そこがこの作品のロマンチックな恋のファンタジーにはふさわしい終わり方だった。
 サンダンス映画祭脚本賞受賞、インディペンデント・スピリット賞新人脚本賞受賞、その他にもいろいろ受賞しているようで隠れた傑作かも知れない。
        IMDb
 公式サイト(US)

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 何かの作品で見かけた顔の先輩記者ジェフ(ジェイク・ジョンソン)と、インド系アメリカ人らしきアーナウ(カラン・ソニ)との珍道中が前半の見せ場だったが、ほとんどジェイク・ジョンソンの一人舞台でキャリアの長い芸達者な俳優であることをうかがわせた。

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 謎の男ケネスを演じるマーク・デュプラスはただ者ではない不思議なイケメン男で不思議な存在感を発揮していたが、監督業が本業のようで、『僕の大切な人と、そのクソガキ』を兄と共同監督していた人物だった。他に、『ハッピーニート 落ちこぼれ兄弟の小さな奇跡』という作品の監督もしている。

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 テレビを中心に活動しているためになじみのないオーブリー・プラザだったが、『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』に出演していた。プエルトリコ系女優の期待の星である。セス・ローゲンと舞台で共演したり、ジャド・アパトー一派との交流もあるようで、お笑い系の美人女優としての活躍が期待される。

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 オーブリー・プラザのオーブリーという名前はソフトロックのブレッドの曲、『オーブリー』から名付けられている。

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★ 『One Night,One Love/ ワンナイト、ワンラブ』

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2011年。イギリス。"YOU INSTEAD".
  デヴィッド・マッケンジー監督。ユージン・ケリー音楽。
 英国で最大級のロックフェス、「T・イン・ザ・パーク」を舞台に、アクシデントで出会ってしまったミュージシャン同士の恋を描いた映画。
 実際にロックフェスの現場を利用して短期間で撮影されたものらしく、会場の観客の様子を映し出す映像が中心で、恋愛ドラマはおまけのような感じもするあっさりとした作品だった。
 主演の二人はミュージシャンではなくプロの俳優だが、いかにもミュージシャンっぽい振る舞いを身に着けて成りきっている。
 撮影されたのは2010年のフェスティバル会場で、プロディジーが通りかかったり、有名なミュージシャンもちらほらと映っていたようだったが、UKの音楽に疎くなって久しいので、知らない音楽ばかりが流れていた。深夜になってからのテクノの音にはおっ、これはカッコいいと一瞬思ったりもしたが、総じて退屈な印象があった。興味を失ってしまった、ということなのだろう。

 今は日本でもまさにロックフェスの季節だが、フジロックにもサマソニにも足を踏み入れたことすらなく、地方のマイナーなイベントしか経験のない者には夢のような空間が広がっていた。10万人が1か所に集合している風景は実際に体験してみないことには感じようがない世界だろう。

 主役の二人にいまひとつ魅力を感じられなかったせいか、会場のドキュメンタリー的な部分の方に興味が向かいがちだったが、複雑な四角関係のままにベッドに入る場面など、それなりにドラマチックな出来事は起こっていた。
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  公式サイト(日本)

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 アメリカからやって来た大スターのエレクトロ・ポップ・ユニット、「ザ・メイク」のヴォーカルのアダム(ルーク・トレッダウェイ)は無名のガールズ・バンド、「ダーティ・ピンクス」のモレロ(ナタリア・テナ)とちょっとしたことで口論になった。
 二人は仲裁に入った牧師みたいな男に冗談半分に手錠をかけられてしまう。牧師みたいな男はどこかへいなくなり、仕方なくアダムとモレロは反発し合いながらも行動を共にせざるを得なくなった。
 始めはいがみ合ってばかりいた二人だったが、ずっと一緒にいる内にお互いへの理解が深まってくる。

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 「ザ・メイク」の曲も「ダーティ・ピンクス」の曲もかなりダサいイメージが強かったが、ダーティ・ピンクスの曲にはヴァセリンズのユージン・ケリーが手を加えているらしく、ヴァセリンズっぽい感じもあった。
 この映画がヒットしなかった理由は音楽に魅力が乏しかったからではないか、という気もするが、好みの問題なのでよくわからない。深夜にギターの弾き語りをする女性シンガーの曲はけっこう好きだった。
 ヴァセリンズに音楽を担当させたこと自体に問題があったのかも知れない。嫌いではないバンドだっただけに残念だが、今はヴァセリンズの時代ではない。

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 アダムと恋に落ちるモレロよりもアダムの元カノで元ジャンキーのスーパーモデル、レイクを演じていたルタ・ゲドミンタスという女優の方に魅力を感じた。
 現実にはアダムを演じたルーク・トレッダウェイと彼女はこの映画での共演がきっかけで本物の恋人同士になったらしく、やっぱりそうだ、その選択が正しいはずだ、とどうでもいいことを思った。


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★ 『マジック・マネー』

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2012年。アメリカ。"The Brass Teapot".
  ラマー・モーズリー監督。ティム・メイシー脚本・製作。
 痛みが現金になって現われる魔法のお茶瓶を手に入れた若夫婦が巻き込まれる騒動を、マイケル・アンガラノとジュノー・テンプルの二人を主演にして描いたドラマ。
 マイケル・アンガラノ君が夫役でジュノー・テンプルが妻役という組み合わせは一見して完璧なカップルに映る。
 1950年の青春ギャング映画、『拳銃魔』の駄目カップルを思わず連想してしまう完璧なだめさを持っている。あまりに完璧なので作品の出来はどうでも良くなってしまうくらいに素晴らしい夫婦だった。
 夫婦の周辺の人々、アレクシス・ブレデルやアリア・ショウカットなども良い塩梅の駄目人間ぶりを見せていて、いろいろなシーンを細切れにして見ると面白いところだらけなのだが、全体としてはかなり駄目な映画である点が主役の二人の駄目さ加減と重なり合って捨て難い魅力をもたらしている。
 クライマックスで大勢死人が出るのはコメディ映画としてバランスが悪い、物語が進むにしたがって雑になるなどの欠点が目立つが、その割にはそれほど悪い作品には思えないのは不思議な気もする。

 ジュノー・テンプルとマイケル・アンガラノという組み合わせは素晴らしいのでこのドラマだけで終わらせるのはもったいない。駄目夫婦の冒険シリーズとして続けていってもらいたいような心持ちになった。
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 アリス(ジュノー・テンプル)は心の病を抱えながら夫のジョン(マイケル・アンガラノ)と貧しいながらも幸福な生活を送っている。
 アリスは優秀な学業成績だった過去のことが忘れられずに自分にふさわしいと思う一流企業に履歴書を送っては断られるという奇妙な行動を止めることが出来ないでいた。
 ジョンは電話で商品を売りつける通販会社の社員だったが、営業成績の不振が続き不況を理由に解雇されてしまう。
 ある日、骨董店で見つけた美しいお茶瓶に魅了されたアリスはそのお茶瓶を盗んでしまった。そのお茶瓶は人の痛みを現金に変えてしまう魔法のお茶瓶だった。そのことに気づいたアリスとジョンは身体のあちこちを自分で痛めつけることを繰り返し、あっという間に大金持ちになった。
 やがて、二人は魔法のお茶瓶が物理的な痛みだけではなく、心の痛みにも反応することを知り、お互いに心を傷つけあうような言葉をぶつけ合う。
 アリスが、夫にきついことを言われて相当に傷ついているのに平静を装おうと努力しているさまが健気でかわいらしく、そのシーンのジュノー・テンプルのキュートさは優れている。

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★ 『グランド・イリュージョン』

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2013年。アメリカ/フランス。"Now You See Me".
  ルイ・テリエ監督。
 見た印象は、チームで大がかりな犯罪をおこなう『オーシャンズ』シリーズと、雑だが多少はミステリーの謎解き要素のある『ナショナル・トレジャー』シリーズとを足したみたいな映画で、予算の関係かそれをしょぼくB級作品に仕上げたようなもののように見えた。悪者だけではなく、観客も詐欺に引っかけて驚かせようという狙いもある。

 出演者は豪華なようにも見えるが、よく見ると、各々があんまり仕事を選ばないでオファーを受ければ何でもほいほいと出演してしまう俳優ばかりである。
 勢いのあるジェシー・アイゼンバーグは例外かも知れない。これまでと少し異なるイケメンのプレイボーイで二枚目路線とも見えるキャラクターであることに魅了されたのかも知れない。それでも、見る者をイラッとさせる早口での不安定なしゃべり方は健在で、『ソーシャル・ネットワーク』のときと大した違いがないギークっぽさが次第に明らかに見えてきて微笑ましかった。

 奇術師の世界を舞台にした映画の困難さは、『プレステージ』や『幻影師アイゼンハイム』の失敗によって実証されてきた。
 映画館(シネコン)という存在自体が社会の中でイリュージョンを見せる場として機能しているので、その中で魔術や奇術を題材にするとどうしても変な風になってしまう。それを乗り越えるには強力な戦略が必要になるはずだ。心ある演出家が挑戦すれば何かが起こるかも知れない。『オーソン・ウェルズのフェイク』をもう一度見てみたい。
 CGを使わない地味な恋愛映画やサスペンス映画などで映画の持つイリュージョンの特性が顕著にあらわれる。
 残念ながらルイ・テリエ監督は心ある映画監督ではないようだった。映画で奇術を取り扱うことに対して明確なビジョンを持っていないので、そうなると謎解きミステリーの面白さに期待するか、チームでの詐欺行為により悪人をぎゃふんと言わせる『スティング』みたいな爽快感にわずかな期待を寄せるしかない。
 その点はジョン・C・ライリー出演の『クリミナル』や『ラッキーナンバー7』と同じ程度の楽しさはあったので良かった。

 ジェシー・アイゼンバーグとウディ・ハレルソンとが共演しているのを見ながら、やっぱり『ゾンビランド』の続編の企画は流れてしまったのか、この作品は『ゾンビランド』企画が流れてできた空き時間を埋めるためのつぶしの映画なのだろうか、という気もしたが、
 そういう偏見のせいか、やる気がないので適当に流しているように映る二人に対して、
 フォー・ホースメンの残りの二人、アイラ・フィッシャーとデイヴ・フランコとが張り切っていて素晴らしかった。
 アイラ・フィッシャーは『バチェロレッテ』のときはキルステン・ダンストの影に隠れて目立たな過ぎたが、ここでは生き生きとして自分が魅力的な女優であることを誇示しているようだった。あまりに生き生きとして見えたので、後半までアイラ・フィッシャーが真犯人に違いない、と思い込んでいた。デイヴ・フランコの悪ガキぶりもさまになっていて面白い。

 フォー・ホースメンの大がかりな詐欺のトリックを見ながら、『ルパン三世』を実写化するとしたら、こんな感じの映画になるのかもしれない、という気がした。しかし、そう思うとアイラ・フィッシャーではちょっと弱い、スカーレット・ヨハンソンあたりが適任に見える。
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 映画のつかみとして始めのシーンで演じられるイリュージョン、ラスベガスのステージからパリの銀行の金庫室まで任意の観客を瞬間移動させて数百万ユーロを強奪する、というシーンから危なっかしい演出で見る者を不安にさせる。実際のショーとして眼の前で見るのでなく、スクリーンを通してみると、白々しい気分にしかならない。何の驚きもないからである。
 せこいCGが不安をさらに増幅させる。
 モーガン・フリーマンによって種明かしがされると、さらにがっかりの度合いは強まった。意外にもありふれた仕掛けで、お金をかければ誰にでも出来るトリックだったからだった。

 しかし、こういう場面にひとつひとつ驚きの要素を入れていくには長時間の会議やスタッフの強い結束が必要になるのだろうが、そんなにゆとりをもって製作された映画ではないことはわかる。フォー・ホースメンのステージ・パフォーマンスにも案外リハーサル回数は少なかったことを思わせる練りこみの足りない印象が付きまとっていた。

 FBI捜査官のマーク・ラファロとインターポール・フランスから派遣されてきたメラニー・ロランとの恋に発展しそうでなかなか発展しないエピソードも、クライマックスのどんでん返しで謎は解けたが、そうなると前半のマーク・ラファロの行動のつじつまが合わなくなるような気もしたが、そこまで緻密に考える映画ではないので、流れで楽しんでいれば良いのだろう。

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 一週間もすれば、全部忘れてしまえる軽さ、胃にもたれなさが持ち味のお気楽な詐欺コメディ映画だと思えばそこそこに楽しさのある作品だった、ような気がしないこともない。
 そういえば、これとわずかながら似た感触のあったソダーバーグの『サイド・エフェクト』というだまし映画のことをすでにほとんど忘れてしまっていた。劇場では80席ちょっとの狭いスペースが用意されているが、それでも空席が目立つ。
 
 持たざる者がチームを組んで悪いお金持ちからトリックを使って大金を巻き上げるコンゲーム映画が好きな人、ガイ・リッチーの初期のだまし映画が好きな人には楽しい映画となるかも知れない。
 メラニー・ロランに注目が集まりがちだが、この映画の最高殊勲選手はやはり、もう若くはないがかわいらしいアイラ・フィッシャーのがんばりと「私はまだまだやれる女よ。」という無言のメッセージ、、今後の大活躍を予感させる肩の力の抜けた演技を見せたデイヴ・フランコの二人だったように思われた。

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