2011年。フランス。"INTOUCHABLES".
エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ監督・脚本。
事故で首から下が麻痺した大富豪と、彼を介護するスラム出身の黒人青年との友情を描いた物語。実話にもとづいた物語で単なる感動ものの作品には終わらない、という評判だったが、
そう聞くと、マーク・ウォールバーグ主演の『ザ・ファイター』を思い出す。実際にこの映画は『ザ・ファイター』によく似た作りになっていた。
『ザ・ファイター』は良い映画だったはずだが、記憶にあるのはクリスチャン・ベールの薬物中毒の兄役の成り切り演技の見事さしかないようだ。実話にもとづく感動物語は意外にその場限りの消費で忘れ去られやすいのかもしれない。
通常の手続きでは出会うはずのないふたりが出会ってしまった物語という点では、パトリス・ルコント監督の『ぼくの大切なともだち』が記憶に新しい。
『ぼくの大切なともだち』は完全な作り話だったが、ハッピーエンドで終わっていても、全体にただよう人生についての暗い認識が独特の味となってちょっと忘れがたいところがあった。
この作品にも、大枠の感動的な物語からは、はみ出してしまう孤独と絶望の深さが演出のせんさいな手つきからときどき現れることがあった。
首から下が麻痺している事態から逃れることはできない以上は、友情をはぐくんだことが心の支えになったとしても、自殺することもできないという健常者には想像できない絶望があったはずだ。それとどう折り合いをつけて生きていったのか、
心の闇の深さは他人にはわかりようがないが、ときどきはさみ込まれる主人公の横顔や正面からのショットでの暗い眼の表情、寒々とした風景のショットが何かを示そうとしているように感じとられる。
この映画は主人公ふたりの人生のある一時期を切り取ったものに過ぎなくて、ハッピーエンド以降も死ぬまでは生き続けなければならない。それは相当にハードできついものになるはずだ。
きつい中での楽しみとして登場する女性たちのエロさが多くもなく少なくもない絶妙なあんばいで素晴らしかった。
IMDb
公式サイト(日本)
アース・ウィンド&ファイアーの曲がふたりの友情を確かなものにする小道具として何度も使われる。それはちょっと気恥ずかしい。フランス人って、音楽の趣味は超ダサいのではないのか、センス良いふりをしているだけで、と長い間疑わしく思っていたことがさらに疑わしくなった。
首から下が麻痺したフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は耳の周辺の感覚が敏感になったと言い、マッサージ嬢に耳をさわってもらうシーンが実はいちばん印象深かった。
↧
★ 『最強のふたり』
↧