Quantcast
Channel: 映画の感想文日記
Viewing all articles
Browse latest Browse all 159

★ 『九月の冗談クラブバンド』

$
0
0

1982年。日本アート・シアター・ギルド。
  長崎俊一監督・脚本・編集。
 今から20年以上前、学生時代に京都市内のどこか、京一会館か京大西部講堂か市民センターのようなところだったかで見て、全く意味が分からずに気になっていた映画だった。DVDがいつの間にか発売されていたので見てみた。
 見直してみて思ったことは、これはテリー・ツワイゴフ監督の『ゴーストワールド』が描こうとしていた世界に近いものを目指したのではなかったか、ということだった。近年のアメリカ製ブロマンス映画に近い感触もある。仲間たちとの別れ、青春との決別が主題になっているようだ。宇崎竜童の歌う主題歌がわかりやすい映画の解説書のようなものにも聞こえる。
 『ゴーストワールド』の主人公イーニドとこの作品の主人公リョウのイメージとが重なって見えてくる、ような気もする。イーニドはバスに乗ってどこかへ行ってしまったが、リョウはシャワールームに誰かわからない女性の死体を置き去りにして雨の中を走り去っていく。

 走るのをやめてしまった元暴走族の男と、仲間の一周忌に再び派手なお祭りを始めようとするかつての仲間たち、お祭りを阻止しようして敵対する本牧の暴走族ルパン、そこに暴走族狩りに命をかける奇妙な男たちが乱入して物語は混乱してくる。
 走るシーンのほとんどない退屈な暴走族映画、暴走族を素材にしてヌーヴェルヴァーグ気取りのハッタリ演出をかました失敗作などと当時はみなしていたような記憶がある。
 しかし、混乱し切ってはいるが、これはまさしく青春映画そのものだった。

 青春映画に欠かせない美しいヒロインを演じる伊藤幸子という女優も光り輝いている。この映画以外には目立った作品には出演しないままに引退しているようで、それだけにそのはかなげな横顔の美しさとともに忘れがたいイメージを見る者に残して去っていく。ロベール・アンリコ監督の『冒険者たち』でのジョアンナ・シムカスに匹敵する幻のヒロインと言える、かも知れない。

jodanclub02
 かつては「ハマのリョウ」と呼ばれ、横浜では知らぬ者のいない伝説の暴走族のリーダーだったリョウ(内藤剛志)は、現在は「冗談クラブ」というバーのマスターとして地味に生活していた。
 リョウは仲間のテツジがバイク事故で死んでから走るのをやめていた。
 もうすぐテツジの一周忌である九月を迎える。かつての仲間たち、夕陽(杉田陽志)、ザジ(樋口達馬)、ネム(山野上智子)はバイクをチューンナップして一周忌の派手な走りでチームの復活を横浜中に宣伝するつもりでいるが、リョウは仲間の誘いにも興味を示さない。

 本牧の暴走族ルパンのリーダー、モロ(古尾谷雅人)はリョウにルパンが今や横浜を支配していることを告げて、九月の集会に参加しないよう釘をさすが、リョウはバイクそのものに興味をなくしたかのようにそっけない態度をとる。実はモロは、リョウが再び走り出すことをひそかに期待しているようでもあった。

jodanclub01
 横浜には暴走族狩りをする謎の三人組が出現して、集団で走っているバイクを見かけると破壊工作を仕掛けることを繰り返していた。リーダーは羽根(室田日出男)で、シド(舟久保信之)と夏雄(諏訪太郎)との三人でチームを組んでいた。
 常にヘッドフォンで音楽を聴いている羽根の謎に満ちたキャラクターが面白い。なぜ暴走族に敵意をむき出しにするのかは謎のままだった。

  バイクのエンジン音を聞いただけで即座に、「CB750、チューンナップしてやがる!スズキのGSも!」とバイクの車種を言い当てて怒りのあまり頭に血がのぼるキャラクターのシドも面白かった。
 夏雄は常に化粧をしているゲイの青年であるらしく、なぜかラッツ&スターの黒塗りの顔にゴールドのスーツ姿で現れたりする。妹のネムが暴走族に参加したことでふしだらな娘になったことを嘆き悲しむあまり暴走族に憎悪を抱くようになったらしい。クライマックス場面では女装して火炎瓶を投げバイクを爆破するが、自分の体に火が燃え移って自爆して死ぬ。

jodanclub03
 会社勤めを始めたレイコ(伊藤幸子)は職場の同僚である生真面目な中年男、羽根と結婚することにする。かつての恋人テツジの死の呪縛から自由になるためだった。レイコは羽根が暴走族狩りをしている暗い情念を秘めた男であることを知らなかった。

 九月になり、本牧のルパンが横浜中を派手に走り回るが、リョウは走らない。リョウが走らないのはレイコのせいだと思い込んだネムはレイコをナイフで刺し殺してしまう。ルパンと羽根チームとの決戦が始まり、羽根たちはルパンに捕らえられ袋叩きにされる。
 血まみれで自宅に戻った羽根はレイコが死んでいるのを見ると、レイコのかたわらに横たわりそのまま息絶える。

 夕陽とザジは「ハマのリョウなど最初から存在していなかったに違いない。」とつぶやく。レイコを殺したネムは眼帯をつけて改造車両でどこへともなく去っていく。
 主要な登場人物がいかにも演劇畑出身という印象でまったく暴走族には見えないのが不思議な印象を与える暴走族映画で、エキストラで出演しているその他大勢の暴走族の本物っぽさとの落差が大きい。


 エンドクレジットを見ていると、作家の保坂和志が出演者の中にあったが、顔を良く知らないのでどこに出ていたかわからない。助監督に諏訪敦彦の名前があったり、他にもいろいろ、おやっと思う名前がたくさん出てきて、エンドクレジットが一番面白かったかも知れない。

九月の冗談クラブバンド [DVD]/キングレコード
¥4,179
Amazon.co.jp


Viewing all articles
Browse latest Browse all 159

Trending Articles