2013年。アメリカ/フランス。"Now You See Me".
ルイ・テリエ監督。
見た印象は、チームで大がかりな犯罪をおこなう『オーシャンズ』シリーズと、雑だが多少はミステリーの謎解き要素のある『ナショナル・トレジャー』シリーズとを足したみたいな映画で、予算の関係かそれをしょぼくB級作品に仕上げたようなもののように見えた。悪者だけではなく、観客も詐欺に引っかけて驚かせようという狙いもある。
出演者は豪華なようにも見えるが、よく見ると、各々があんまり仕事を選ばないでオファーを受ければ何でもほいほいと出演してしまう俳優ばかりである。
勢いのあるジェシー・アイゼンバーグは例外かも知れない。これまでと少し異なるイケメンのプレイボーイで二枚目路線とも見えるキャラクターであることに魅了されたのかも知れない。それでも、見る者をイラッとさせる早口での不安定なしゃべり方は健在で、『ソーシャル・ネットワーク』のときと大した違いがないギークっぽさが次第に明らかに見えてきて微笑ましかった。
奇術師の世界を舞台にした映画の困難さは、『プレステージ』や『幻影師アイゼンハイム』の失敗によって実証されてきた。
映画館(シネコン)という存在自体が社会の中でイリュージョンを見せる場として機能しているので、その中で魔術や奇術を題材にするとどうしても変な風になってしまう。それを乗り越えるには強力な戦略が必要になるはずだ。心ある演出家が挑戦すれば何かが起こるかも知れない。『オーソン・ウェルズのフェイク』をもう一度見てみたい。
CGを使わない地味な恋愛映画やサスペンス映画などで映画の持つイリュージョンの特性が顕著にあらわれる。
残念ながらルイ・テリエ監督は心ある映画監督ではないようだった。映画で奇術を取り扱うことに対して明確なビジョンを持っていないので、そうなると謎解きミステリーの面白さに期待するか、チームでの詐欺行為により悪人をぎゃふんと言わせる『スティング』みたいな爽快感にわずかな期待を寄せるしかない。
その点はジョン・C・ライリー出演の『クリミナル』や『ラッキーナンバー7』と同じ程度の楽しさはあったので良かった。
ジェシー・アイゼンバーグとウディ・ハレルソンとが共演しているのを見ながら、やっぱり『ゾンビランド』の続編の企画は流れてしまったのか、この作品は『ゾンビランド』企画が流れてできた空き時間を埋めるためのつぶしの映画なのだろうか、という気もしたが、
そういう偏見のせいか、やる気がないので適当に流しているように映る二人に対して、
フォー・ホースメンの残りの二人、アイラ・フィッシャーとデイヴ・フランコとが張り切っていて素晴らしかった。
アイラ・フィッシャーは『バチェロレッテ』のときはキルステン・ダンストの影に隠れて目立たな過ぎたが、ここでは生き生きとして自分が魅力的な女優であることを誇示しているようだった。あまりに生き生きとして見えたので、後半までアイラ・フィッシャーが真犯人に違いない、と思い込んでいた。デイヴ・フランコの悪ガキぶりもさまになっていて面白い。
フォー・ホースメンの大がかりな詐欺のトリックを見ながら、『ルパン三世』を実写化するとしたら、こんな感じの映画になるのかもしれない、という気がした。しかし、そう思うとアイラ・フィッシャーではちょっと弱い、スカーレット・ヨハンソンあたりが適任に見える。
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映画のつかみとして始めのシーンで演じられるイリュージョン、ラスベガスのステージからパリの銀行の金庫室まで任意の観客を瞬間移動させて数百万ユーロを強奪する、というシーンから危なっかしい演出で見る者を不安にさせる。実際のショーとして眼の前で見るのでなく、スクリーンを通してみると、白々しい気分にしかならない。何の驚きもないからである。
せこいCGが不安をさらに増幅させる。
モーガン・フリーマンによって種明かしがされると、さらにがっかりの度合いは強まった。意外にもありふれた仕掛けで、お金をかければ誰にでも出来るトリックだったからだった。
しかし、こういう場面にひとつひとつ驚きの要素を入れていくには長時間の会議やスタッフの強い結束が必要になるのだろうが、そんなにゆとりをもって製作された映画ではないことはわかる。フォー・ホースメンのステージ・パフォーマンスにも案外リハーサル回数は少なかったことを思わせる練りこみの足りない印象が付きまとっていた。
FBI捜査官のマーク・ラファロとインターポール・フランスから派遣されてきたメラニー・ロランとの恋に発展しそうでなかなか発展しないエピソードも、クライマックスのどんでん返しで謎は解けたが、そうなると前半のマーク・ラファロの行動のつじつまが合わなくなるような気もしたが、そこまで緻密に考える映画ではないので、流れで楽しんでいれば良いのだろう。
一週間もすれば、全部忘れてしまえる軽さ、胃にもたれなさが持ち味のお気楽な詐欺コメディ映画だと思えばそこそこに楽しさのある作品だった、ような気がしないこともない。
そういえば、これとわずかながら似た感触のあったソダーバーグの『サイド・エフェクト』というだまし映画のことをすでにほとんど忘れてしまっていた。劇場では80席ちょっとの狭いスペースが用意されているが、それでも空席が目立つ。
持たざる者がチームを組んで悪いお金持ちからトリックを使って大金を巻き上げるコンゲーム映画が好きな人、ガイ・リッチーの初期のだまし映画が好きな人には楽しい映画となるかも知れない。
メラニー・ロランに注目が集まりがちだが、この映画の最高殊勲選手はやはり、もう若くはないがかわいらしいアイラ・フィッシャーのがんばりと「私はまだまだやれる女よ。」という無言のメッセージ、、今後の大活躍を予感させる肩の力の抜けた演技を見せたデイヴ・フランコの二人だったように思われた。