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Channel: 映画の感想文日記
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★ 『アフターショック』

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2012年。アメリカ/チリ。"AFTERSHOCK".
  ニコラス・ロペス監督・脚本。イーライ・ロス製作・主演。
 チリのサンチャゴを訪れたアメリカ人観光客たちが突然の地震によってひどい目にあいながら死んでいくさまを描いたパニック映画。
 「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション」という企画で短期間だけ上映されていたが、見逃してくやしい思いをしていたら、すぐにDVDのレンタルが開始されてうれしかった。
 しかし、レンタルDVDには特典映像もメイキングや関係者へのインタビューもない。これでは物足りないのでさっそくアマゾンで予約することにした。
 これほどに映画に対する情熱がよみがえったのは久しぶりのことだった。イーライ・ロスの日本でのデビュー作だった『キャビン・フィーバー』を見たときの興奮状態に近い。『キャビン・フィーバー』を見た直後の、「この地球上にこれ以上の映画が存在することは不可能だろう。」と思い込んだ感覚がいま再びよみがえる。

 2013年のホラー映画は『死霊館』がベストで決まりだろうと思っていたところへ、ホラー映画に限定しなくても、今年見た映画のなかにDVDも含めれば『アフターショック』以上の映画はただの一本もなかった。『ゼロ・グラビティ』をまだ見ていないのでわからないが、『アフターショック』以上である確率は限りなくゼロに近い。などと思いつつ、しかし、『キャビン・フィーバー』が日本で話題になることもなく消えていったのと同じように、この『アフターショック』も消え去っていくことを考えるとむなしさも感じる。

 デヴィッド・リンチの弟子だという点に興味を持って『キャビン・フィーバー』を見たのも今では遠い昔となった。いつの間にか師匠であるはずのデヴィッド・リンチよりメジャーな存在になったイーライ・ロスだったが、いつまでたってもフィルム・ノワールへのフェティッシュな愛情、フィルム・ノワール・マニアという気取った姿勢を捨てきれなかったデヴィッド・リンチは結局のところその程度の人物だったのだろう。
 それに比べて、イーライ・ロスのこだわりのなさ、映画である必要性さえ疑わしいようなビジネス上の動き方には何を考えているのかわけがわからない不気味さもありながら、それでも自由に動き回る人間の喜びがあり、あこがれを抱く。

 『キャビン・フィーバー』や『ホステル』の頃までは世間をなめ切った大学生がへらへらしながら億万長者になってしまって、「困ったな、一生遊んで暮らすしか選択肢はないのか。」と言っているような不遜ですっとぼけた態度が垣間見られたが、
 『アフターショック』には自分の運命を真摯に受け止める人間の態度が見られるところが、これまでのイーライ・ロス監督作品とは大きく異なっているように見える。
 監督はニコラス・ロペスというチリの映画監督なので違っているのが当たり前だったが、見知らぬ土地でひどい目にあう物語というイーライ・ロスの映画作りの特性は継承されている。

 見知らぬ土地でひどい目にあう、ということを繰り返し映画にしてきたイーライ・ロスだったが、『アフターショック』では自ら主演俳優となり、もっともむごたらしい死にざまを見せることで「見知らぬ土地でひどい目にあう」ことを実践している。
 映画マニアが連想しがちなカール・ドライヤーの『裁かるるジャンヌ』のジャンヌ・ダルクとのイメージの重ね合わせなどを意図的に行わせないような演出によって描かれるイーライ・ロスの残酷な死にざまは、「ことあるごとにカール・ドライヤーだとかフリッツ・ラングだとか言いたがる映画ファンと呼ばれる連中にはうんざりだぜ!」というイーライ・ロスの心の叫びも反映しているのかも知れないが、
 即物的な残酷さに徹して描かれるイーライ・ロスの死には意図していない部分で崇高なイメージが宿ってしまっており、「人が生きるということは、見知らぬ土地でひどい目にあい続けることで、それが意味だ。そうであれば、全力でひどい目にあいに行こうじゃないか。」という世界観のようなものにたどり着いてしまったようにも映る。
   IMDb

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 チリ映画界のロマンチック・コメディの帝王だというニコラス・ロペス監督と、チリ映画のロマンチック・コメディ映画の常連女優たちによって演じられる血も涙もない物語には、「こんな映画に出てしまって、この先大丈夫なのか。」と心配になるほどに女性たちはひどい目にあい続ける。
 地震による無政府状態に乗じて出現したならず者たちによってレイプされたり銃殺されたり、切り殺されたり殴り殺されたりする。
 多くの人が考える、「こんな目にあうのだけはいやだな。死ぬときにこんな死に方だけは絶対にいや。」というそのものが出演者たちの身に降りかかる。

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 故郷に幼い子どもと妻がいることを恥ずかしげに語るイーライ・ロスは結局最後までナンパ男になることが出来なかった気の良い奴だった。
 目の前で友だちの女性がレイプされながらどうすることも出来ずに、人間としての尊厳を賭けて石を投げようとするが、石は届かない。ならず者の怒りを買ってイーライ・ロスは生きながら燃やされてしまい灰になるが、ならず者は灰と化したイーライ・ロスをけっ飛ばす。
 この映画の主題が凝縮されたシーンだったが、凝縮され過ぎて崇高な高みにまで到達してしまった。本人は不本意だろうが、『裁かるるジャンヌ』の持つ崇高さに迫っている。人が神と呼ぶものに近づいていた。

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 『ハングオーバー』シリーズのザック・ガリフィアナキス演じるアランにそっくりなキャラクターのマリート(ニコラス・ロペス監督の兄、マティアス・ロペス)がイーライ・ロスの旅行仲間として登場して、この人だけは生き残るのだろう、という甘い予想を拒否するむごたらしい死にざまを見せた。
 人が次々に死んでいくだけの物語になぜこれほど心を、というより魂を揺さぶられるのか、答えは今のところ、この映画が「魂を揺さぶる映画」だから、という以外の理由はわからない。

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