2010年。アメリカ。"The Myth Of The American Sleepover".
デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督・脚本。
ホラー映画の『イット・フォローズ』が話題になって注目されたデヴィッド・ロバート・ミッチェル(以下DRMと略)がその前に作っていた実質的なデビュー作で、この作品は『イット・フォローズ』が話題になるちょっと前か同時期にすでにアメリカ映画マニアの批評家や新し物好きの人々の間で噂の作品だった。全国各地で小規模ながら自主上映のような形で何度も上映会が開かれてきており、カルト映画と化していた青春映画でもあった。ブルーレイも自主上映団体のクラウドファンディングで実現した、という経緯もあった。カルト映画という響きには何か心躍るものがあるが、実際に見てみると「まあ、こんなものかな。」とちょっとした幻滅を感じることもあった。
しかし、この『アメリカン・スリープオーバー』はカルト映画という言葉の期待以上のものを見せてくれた、ような気がする。
全部の場面が現代詩になりそうな画面に魅了される映画だったが、登場人物が多くて、ダラダラして特に驚くようなことは起こらない。しかし、21世紀の『アメリカン・グラフィティ』に成り得る可能性はあると思う。
『イット・フォローズ』はただ怖いだけではない何か心に引っかかるものがあって、これは一体何なのか、と考えを巡らせる機会を与えてくれる映画だったが、具体的にはよくわからない、何か奥深いものがありそうだ、といった程度の感想だった。
『アメリカン・スリープオーバー』と『イット・フォローズ』とを並べてみると、DRMは同じ物語を語っているのではないか、ということに気づく。『アメリカン・スリープオーバー』は青春映画の傑作だが、ただ若いというだけで光り輝く青春の物語とはちょっと違っている。青春期の切なさや胸がキュンとなる瞬間が繊細に捉えられてはいるものの、非常にクールな視点も同時に存在している。具体的には、観客はこの映画の登場人物の誰かになりたいとは決して思わないだろう、誰もあこがれの対象とならない登場人物だらけの青春映画だった。
若者でもない者がなぜ青春映画を見るのか、ということについての答えがこの映画にはあった。青春映画には人が生まれてから死ぬまでの物語の核心部分が凝縮されているような気がする、特にこの『アメリカン・スリープオーバー』にはそれを強く感じ取る、それで『イット・フォローズ』の奥深い感じがわかったような気にもなった。『イット・フォローズ』も「人はなぜ生まれて死んでいくのか?」という問いかけに満ちたホラー映画だったような気がする。
エンディングで流れるマグネチック・フィールズ(mgnetic fields)というバンドのビーチボーイズへの憧れに満ちた"The Saddest Story Ever Told”という曲が素晴らしい。歌詞の意味を知ると泣いてしまいそうになる。
有名な俳優は一人も出演しない、というより俳優ですらない人々が大部分を占める映画で、オーディションで選ばれた一般の少年少女が主要登場人物を務める。素晴らしいのは素人だらけの映画なのにそれが全く気にならないどころか、彼らがアマチュアだということに気づくことさえないまでに自然な演技や台詞を発している点で、長期間のワークショップが行われていたのかも知れない。
スリープオーバーとはお泊り会のことで、新学期前の少年たちや少女たちが誰かの家に泊まりにいく習慣らしく、パジャマパーティーと同じことだろうか。
出演している素人(数人だけプロの俳優もいる)の中に将来ブレイクする俳優になりそうな可能性を感じさせる人物も何人かいたが、IMDbを見ると、ほとんどはこれっきりで俳優活動とは縁を切った人々が多数を占めるようだった。
鼻ピアスでちょっと悪ぶった印象のぽっちゃりしたマギーと友人の眼鏡女子ベスがプール監視人の青年と語らうエピソード、スーパーマーケットで見かけた美人を探し求めて夜の街をさまようロブのエピソード、双子の美人姉妹の一人が自分に恋していたと妹から聞かされて双子のいる大学までドライブに出かけるスコットのエピソード、お泊り会の家の娘が自分の彼氏と浮気していたと知りささやかな復讐を企てるクラウディアのエピソードが前面に出ていたが、他にも数多くの登場人物の物語が入り混じってよく理解できていない所もあるので、いずれ見直してみたい。今月からnetflixで配信が始まっている。
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