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Channel: 映画の感想文日記
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★★★ 『恋の罪』

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2011年。「恋の罪」製作委員会/日活。
  園子温監督・脚本。
 荒地派の詩人、田村隆一の詩、「言葉なんかおぼえるんじゃなかった。」で始まる一節(『帰途』という詩らしい)が、主人公のひとりを演じる冨樫真の口から何度も発せられる。
 「言葉なんかおぼえるんじゃなかった。」という感慨は、ボブ・ディランの名前の由来となっているディラン・トマスという詩人の言葉にもあったのを雑誌で読んだ記憶があるので、詩を職業とする人が必ず一度は考える事がらなのかも知れない。
 田村隆一の名前は、ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』の翻訳者として知っていた。詩人としては、荒地派のなかでは、比較的わかりやすい詩を書く人だという認識しかなかったが、その当時の立ち位置としては、谷川俊太郎に近かったのかも知れない。

 東電OL殺人事件にインスパイアされて書かれたオリジナルの脚本にもとずいている映画。東電OL殺人事件は最近再審請求のニュースで話題になっていたので、その事件のことを思い出したが、謎に満ちた事件で、殺人の動機も犯人も見当がつかない、そもそも東京電力のエリート部署にいた高学歴、高収入のOLが売春をする動機が全く判明しておらず、謎に満ちた人物像のままに現在に至っているようだった。
 これは映画やミステリーには最適な題材だろう。

 ダイアン・キートンやリチャード・ギアが出演していた『ミスター・グッドバーを探して』という映画のことを連想した。見たことがあるような、ないような、ストーリーだけはぼんやりと知っている作品で、女教師が深夜のバーでつかの間のセックス相手を探し求める物語で、ラストシーンが強烈だったようだが、記憶にないのでおそらくBSで放送されていたのを途中まで見て、見るのをやめたのだろう。
 L・L・クールJがリリックの中で、「マイ・ネーム・イズ・ミスター・グッドバー」と言っていたので、アメリカでは比較的メジャーな映画だと思われる。

 この『恋の罪』を見ながら、連想していたのはキム・ギドクの作品群だった。『悪い女』、『悪い男』、『サマリア』、『絶対の愛』、『うつせみ』などのイメージがよみがえってきた。
 題材から、『サマリア』のイメージがより強くなった。
 『恋の罪』と『サマリア』では、どっちが勝つのか?『恋の罪』は2時間半近い長編で、途中で時計を確認したりしただれるシーンもあったので、90分ちょっとのコンパクトな『サマリア』がとりあえず勝利したような気がする。
     公式サイト(日本)
映画の感想文日記-koinotsumi1
 高名な作家、菊地由紀夫(津田寛治)を夫にもついずみ(神楽坂恵)は、大学で国文学を教える尾沢美津子(冨樫真)と出会うことで、この世の地獄を旅する者となる。
 津田寛治の演じる菊地由紀夫という名前が、ミニコントで高名な作家役の芸人が名乗りそうな安易な名前なので、ちょっとおかしかった。津田寛治の書いている本も、渡辺淳一を多少高級にした程度の浅はかな作品に思われた。
映画の感想文日記-koinotsumi2
 冨樫真という女優は初めて見たが、大熱演でよくわからない事件をもとにした物語を、よくわからないなりに強引に引っ張っていく。ときどき舞台出身らしい大げさ過ぎるパフォーマンスが見られるシーンもあるにはあったが、それくらい気合いを入れないと務まらない役柄だったので仕方がなかったのだろう。
 結局のところ、尾沢美津子の人物像はよくわからないままだったが、モデルとなった事件の人物が謎を持ったままなので、これでいいのではないだろうか、と思った。
映画の感想文日記-koinotsumi3
 事件が起こった後に、事件を解明する役割として登場する刑事、吉田和子(水野美紀)は、不倫をやめることが出来ずにいるが、物語の見届け人となり、物語が発する問いかけを自分自身にぶつけざるを得なくなる。
 アンジャッシュの児嶋一哉がイヤーな第一印象を与える顔を見せて、『トウキョウソナタ』に続いて好演だった。
 他に深見元基、大方斐紗子などが印象深い。
 カフカや、マルキ・ド・サドなども参照されているようだが、読んだことがないのでわからない。

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