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Channel: 映画の感想文日記
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★ 『ミッドナイト・イン・パリ』

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2011年。アメリカ/スペイン。"MIDNIGHT IN PARIS".
  ウディ・アレン監督・脚本
 ウェス・アンダーソン一派のオーウェン・ウィルソンが初めてウディ・アレンと組んで仕事をした。数年前の『ダージリン急行』の前後に起こった自殺未遂騒動以来、比較的順調に仕事はこなしていたが、果たして大丈夫なのか?といつも心配しながら海の向こうの我らの時代のスター俳優の動向を見つめていた。
 画面に映るオーウェン・ウィルソンの持ち味は、どこか心ここにあらずといった風に見えなくもない表情、世の中を甘く見ているようなふてぶてしい感じ、自分に対するあきらめからきているような苦笑いか照れ笑いといった部分でもあったので、もともと繊細で傷つきやすい心を隠しもった、うつ病気質のさまよいびとだったのかも知れない。
 そんな印象がウェス・アンダーソン映画にはぴったりで、『ライフ・アクアティック』や、『ダージリン急行』、『アンソニーのハッピー・モーテル』といった作品で本領を発揮していた。

 ウディ・アレン映画の熱心な観客ではなかったこともあり、近年のスカーレット・ヨハンソンと組んだ一連の作品は面白いと思っていたものの、前世紀の代表作と呼ばれている映画は、『アニー・ホール』を筆頭にそれほど楽しくも面白くもないと思い込んでいて、ともにオシャレ映画として似たような扱いを受けているが、ウェス・アンダーソンみたいな切れ味は持たない、実は大したことのない演出家だとさえ考えていた。

 そんな偏見からこの新作映画を見たが、いつも以上に高い娯楽度数と、洗練されたペダンチックなお笑いネタでつづられる、自分の身を削るような自虐的とも見える物語に、やはりウディ・アレンは大した人物だ、ウェス・アンダーソンみたいな若造にはまねの出来ないセンスを持っている、と少し考え直した。
 オーウェン・ウィルソンもウディ・アレン映画とは相性が良いような、ややうまくはまっていないような微妙な感じがなかなか良かった。
 それでも、『マッチポイント』や、『それでも恋するバルセロナ』のほうが面白かったような気はした。

 少なくない失笑、くすくす笑いを誘っていたギャグのネタの質はどの程度のものなのか、と考えてみると、意外と賞味期限の短い、一回限りのものが多かったように思える。
 自己とうかいの度合いが激しいウディ・アレンなので、これは意図的に俗っぽくて軽いネタを積み重ねてあったのかも知れない。ウディ・アレンの映画をウディ・アレンの映画だと自覚して見に行くような映画好きにはギリギリの常識であるような映画、文学、美術、音楽の1920年代を素材にしたお笑いネタを見ながら、
 このお笑いはハライチのネタを初めて見たときの感覚に近いな、と思ったりしていた。
 東京03,バナナマンやおぎやはぎっぽくもある。磁石も連想した。山田ルイ53世のラジオを聴いているときの感覚にも近いような気もする。
 ダリに扮したエイドリアン・ブロディがダリの物まねだということを強調するように、自分を指さしながら「ダリイ!」としつこく繰り返していたのは、物まね芸人が何とかギャグを理解してもらおうと涙ぐましい努力をしているみたいで、切なくおかしかった。

 吹けば飛ぶように軽くて無内容で、一回限りの消費で使い捨てられる商品の方向へ走り続けているようなウディ・アレンは実は誰も到達したことがないとんでもないところへ進んでいこうとしているのかも知れない。自分が作る映画というものに対して、何らかの確信を得ているようにも感じられる。
 次回作は一段とものすごいことになりそうな予感もする。
 と、ごちゃごちゃとどうでもいいことを書いてみたが、いろいろ考えさせられて面白かった映画であることには間違いない。
 IMDb         公式サイト(日本)
映画の感想文日記-midnightinparis01
 ⒞2011 Mediaproduction.S.L.U. Versatil Cinema.S.L.and Gravier Productions.Inc.

 レイチェル・マクアダムスのオーウェン・ウィルソンとは決して理解し合えない身もふたもない感じや、マイケル・シーンの常に上から目線のペダントリーの極みみたいな人物像などがアクセントになって、かなり楽しかった。
 日本の映画ファンにとっての黄金時代、というと、けっこう多いのは、1960年代初頭のパリ、まだ五月革命の気配もなかったころの、みんな仲よしだった時期のヌーベルバーグ全盛のころかも知れない。数年前まで自分はそう思っていた。(山田宏一の『友よ映画よ』が愛読書であった影響が大きい。)
 この作品で描かれていた1920年代のパリも村上春樹効果でフィッツジェラルドの知名度は高いので、なじみのある世界なのかも知れない。
 いまは、ウェス・アンダーソンの新作、『ムーンライズ・キングダム(MOONRISE KINGDOM)』がなるべく早く日本で公開される日を待ちたい。

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