2011年。『まだ、人間』フィルム・パートナーズ。
松本准平監督・企画・製作・脚本・編集。
東京が舞台だということを強調してあるからには、ローラ・ニーロの『ニューヨーク・テンダベリー』みたいにぎこちなくぶざまでも良いから、緊張感と孤独の強さをもって、都市生活者のプライドの高さを見せてもらいたい、
そういうものにぶつかってみたい、と長年思い続けてきたかなわぬ願いを胸に新しい東京の映画を見た。
あまりに長い年月そう思い過ぎたせいで、日本の独立系映画を見る際に身体にしみついた妥協癖があり、たいていのつまらない映画でも楽しく見ることができるようになった。
21世紀の東京に生きる3人の男女が主人公で、死んだ男と消えた巨額の現金にふりまわされ、愛と憎しみとで自分を見失ったり、何かを見つけたりする。
キリスト教徒である監督の考えが反映した物語にはよくわからないところがある。
詩に書くべきだったものを、ペンのかわりにカメラで描いたようなものだろう。
低予算のために、セットや小道具のフィクションの濃度が低く、小劇場演劇っぽい第一印象がある。
その上、演出経験の少ない監督の演出は、はっきりと下手である。
しかし、耐え難い下手さではなく、園子温監督の『ちゃんと伝える』があまりに下手過ぎて感動的だったのと同じような下手さだった。
志は高いが、それに見合った画面を創る技術と資金を持たないダメな映画だと人は言うのかもしれない。
この志の高さは異常なまでに自信過剰でもあり、2時間半近い長さを引っ張れると信じて疑っていないようにも見える。
まわりの日本映画があまりに志が低すぎるのかもしれない。シェークスピアと聖書についての考えをめぐらせながら、ドストエフスキーの『罪と罰』を現代の東京で語ってみようと試みた途方もない野心の映画、
よくわからないが、登場人物が四六時中たばこを吸い続けている映画というのは、21世紀の映画としては画期的なものだと思った。
公式サイト(日本)
金に取りつかれたエリート商社マン(辻岡正人)、死んだ男の恋人だった女(穂花)、クリスチャンで同性愛者の青年(上山学)の三人のみで物語が進んでいく。
途中で、でんでんと根岸季衣がちょこっと出演する。二人とも殺人鬼にしか見えなくておそろしい。
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