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Channel: 映画の感想文日記
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★ 『ボーン・レガシー』

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2012年。アメリカ。"THE BOURNE LEGACY".
  トニー・ギルロイ監督・原案・脚本。
 ジェレミー・レナーとは、どんな俳優なのか、『ハートロッカー』で突然脚光を浴びたときに、どこかで見た顔だと思ったら、『28週後』での頼りがいのある兵士役の男だった。脇役なので名前は気にしていなかったが、記憶に残る良い俳優だった。
 『ザ・タウン』で悪い男を演じたときに、若返ったマルコム・マクダウェル、もっと大げさに言えば、世紀のギャングスター俳優、ジェームズ・キャグニーの再来を見たかのような錯覚をおぼえた。
 ジェレミー・レナーが21世紀の新しいノワール映画の英雄となる日が来るのかも知れない、などと過大評価のインフレーションが起こった。

 その後、『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』や『アベンジャーズ』での演じ方を見たときに冷静になった。この俳優は意外とちゃっかりしており、芸能界でそこそこのポジションを確保したら、内容にこだわらずにどんな映画にも出演する安い俳優になり下がりかねない危うさもある。日本の軽自動車とか清涼飲料水とかのCMにニコニコしながら登場する可能性だってある。

 日本に宣伝のために来た時の記者会見をテレビで見て、そういう場所には相当に慣れてきたはずなのに、ビビり過ぎた態度やおどおどした定まらない視線、カタコトの日本語でのあいさつと照れ笑いなどを眼にして、緊張しやすい人なんだなと思って、誠実な人柄や、アジア人に上から目線で接するタイプの外国人ではない寛容な魂などを感じて、感銘を受けたが、同時に苦笑することもあった。
 観客がハリウッド俳優に求めるものは、「自分は華やかな場所が似合うようなタイプの俳優ではない、大したことない人間だよ。」という自意識を持った謙虚な人物ではない。どちらかと言えば、ラッセル・クロウみたいな傲慢さ、「日本人だって?小指で殺せるよ。」とでも言いだしそうな不遜な態度こそが望ましい。

 ジェレミー・レナーはアメリカ版の山本耕史的な俳優なのだろう。今のところは、主役を張れているが、便利な脇役俳優として重宝される日はすぐにやって来る予感がする。
 下積み経験のある俳優なので、柔軟性は高そうだが、ラブロマンスを演じきれるほどの色気はない。顔立ちからも役柄は限定されてきそうだが、アクション映画ばかりに出るには惜しい俳優であることは確かだ。

 ジェイソン・ボーン・シリーズは億万の金を稼ぎ出す企画であるからには、捨ててしまうわけにはいかないことは想像できる。ジェイソン・ボーンのアフターマス(余波)として製作された『ボーン・レガシー』だった。
 マット・デイモンがふっくらした中年オヤジにしか見えなくなった今、誰を次に選ぶのか、
 候補リストをめぐって相当にもめたことが推測できる。積極的な推薦などではなく、おそらく消去法で選ばれたのがジェレミー・レナーだったのだろう。
 前作の『ボーン・アルティメイタム』が傑作であり過ぎたせいで、不当に低く評価されている傾向もあるような気がする。
 金銭欲が先行した生臭い企画の映画だということを考慮すると、非常に出来が良い映画にも見えてくる。

 しかし、船上でのラストシーンを見ながら、「ちょっとストーリーが弱かったかな、続編がありそうにも受けとれる終わり方だが、もう続編はなくても良いよ。」と思った。
 今後のふたりの行く末について空想しても夢が羽ばたかない。マット・デイモンとジュリア・スタイルズも地味なカップルだったが、ジェレミー・レナーとレイチェル・ワイズはそれに輪をかけて地味だ。異国の地、スペインあたりで地味な夫婦になっていそうなイメージしかない。
      IMDb           公式サイト(日本)
映画の感想文日記-legacy01
 登山のスタイルが異様に似合うジェレミー・レナーを見て、このキャスティングは成功したのかも知れない、と思った。小柄で筋肉質で柔道家体型のジェレミー・レナーは登山家役がさまになる。
 毎日トレーニングを欠かさないであろうストイックさが几帳面な堅苦しさにもつながっているように見えるのが弱みだろうか。もっとぜい肉をつければ大物俳優になるのかも知れない。

 相棒となる女性研究員レイチェル・ワイズも細やかな役作りをしており、好感が持てた。閉鎖的な研究所勤務の女性を実感させるヒステリックな言動、恐怖で身がすくんでしまっているのに、研究者としてのプライドだけは捨てたくない様子など、『ナイロビの蜂』以来の気合の入ったリアリティのある演技だった。

 最大の見せ場となるマニラでの逃走と追跡は、新しい計画の最高の成果だとハードルを最大級に上げられて登場した謎のアジア人が、あっけないほどにしょぼかった点を差し引いても、バイクを使ったアクションは見ごたえがあった。
 前作と比べてスケールダウンした感じが、一瞬、バラエティ番組の『SASUKE』と『逃走中』とを足したみたいだな、とも思ってしまった。

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