2008年。イタリア。"SI PUO FARE".
ジュリオ・マンフレドニア監督・脚本。
イタリアで1978年に制定された精神病院廃絶法によって、社会の中で生きることと労働を義務づけられた精神病患者たちの協同組合の記録をもとにした、実際の出来事にもとずいた物語。
2年前のイタリア映画祭で、『やればできるさ』(この映画のオリジナルのタイトル)として公開されて、評判を呼んだ作品らしく、イタリア本国では記録的な大ヒットとなったらしい。
西川美和監督の『ディア・ドクター』と、想田和弘監督の『精神』を想い出した。あの二つの映画をミックスして、全盛期の山田洋次監督が演出したような、涙あり、笑いありのヒューマン・コメディとして作られている。
相当にベタベタな人情喜劇でもあり、ひょっとしたらイタリア共産党のイタリア共産党によるイタリア共産党のための映画なのかも知れない。エンド・クレジットで流れるメッセージがちょっと説教くさく、押しつけがましく感じるところもあった。
しかし、
そんなことはどうでもいい。感動してしまったのだから仕方がない。思わずほろりと泣いてしまった映画は何年ぶりかわからない。
一歩間違えば、ただ白々しいだけのだだすべりなドラマになりそうなところを、綱わたりみたいな危ういバランスで乗り切っていくさまは、『グッバイ・レーニン』を連想させもした。
この監督のコメディ映画に対する感覚はおそるべき鋭さを持っているように見える。もしかすると偶然うまくいっただけで、次回作は見るも無惨な駄作に成り果てる可能性もあるだろう。
何よりも素晴らしいのは、前半部では本気の精神病患者にしか見えない俳優陣の健闘で、後半はやはり俳優が演じているのだな、ということが徐々に見えてしまう場面も多くなったが、
エモーションでぐいぐいと引っ張っていく物語の勢いであまり気にならない。
精神病患者の働く姿を見ながら、観客は自分自身の生活や労働の意味を問い直す、そして精神病とは何か、社会で生きる意味とは何か、と次第に根本的な問いかけに導かれていく物語の流れは、ちょっと優等生過ぎるような気がしないでもない。
ただ、もう一度見てみたいと思った映画とは久しぶりの出会いを果たしたような気がする。
IMDb
公式サイト(日本)
主人公ネッロを演じるクラウディオ・ビシオというおっさん俳優の顔と表情がいい。美しく聡明で心優しい恋人がいるのも納得できる行動力とエネルギーを秘めている。
過激すぎて労働組合を追い出され、精神病患者の協同組合の理事長をやらされるはめになったネッロは、精神病に関してはアマチュアだったが、「働かざる者喰うべからず」の信念によって、精神病患者にもやりがいのある労働を行わせようと考え、床張り工場を設立する。
患者たちが『赤い旅団』のシンボルマークをデザインしてしまい、あわてふためく場面など、過激といっても基本的には穏健な考えの持ち主なのだとさりげなく示されてもいる。
日本ではめったに見かけないタイプのビジネスマンだが、イタリアにはよくいるキャラクターなのかも知れない。だとしたら、イタリアおそるべし、とも思った。
精神病患者たちのキャラクターひとりひとりが素晴らしくて、こういう人たちは職場に必ずひとりはいるような気がするような、そもそも精神病とは何なのか、地球上の人間はみんな精神病患者の一種ではないのか、とも思われてくる全面的な人間賛歌をバランス良く着地させる演出は見事だった。
非常にあやういバランスの上に成り立っている映画なので、数年後に見直して見ると、「大したものではなかったな。」という感想に変わるかも知れない危険性もある。
そういう点でも『グッバイ・レーニン』に似ているかもしれない。(『グッバイ・レーニン』は見直してみたら、荒っぽい点だけが目立って、あまり楽しくなかった。)
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★ 『人生、ここにあり!』
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