2012年。ワーナーブラザース/オフィス・キタノその他。
北野武監督・脚本・編集・主演。
オープニングの、海上からクレーンで引き揚げられる黒塗りの乗用車に赤い文字で"OUTRAGE BEYOND"と重なるタイトルがカッコいい。どこかでよく似たものを見たはずだが、ギャング映画だったか、ゴダールの映画だったか具体的には思い出せない。タランティーノみたいにちょいヌーベルヴァーグ風で、1960年代の映画風にハッタリをかましたタイトル文字の演出で、これから始まるのは俗っぽい娯楽犯罪映画だよと表明してみせて期待をあおる。
ビートたけしがそのカリスマ性を最大限に極めたのは、『ビートたけしのオールナイトニッポン』の時期だろう。その余波は何年か継続しており、1990年代のあるときに美しく聡明な女性が「たけしにだったら何をされてもかまわない。」というのを聞いたことがあった。
つい最近似たような発言を聞いた。若く美しい女性が「有吉にだったら何をされてもかまわない。」とつぶやくのを耳にした。ミュージシャンや俳優や文学者以上にお笑い芸人が若者のカリスマである時代は継続しているのだな、と思った。
図書館に大江健三郎の対談集、『戦後の若者たち』という本がある。それを読んでみると、1950年代に若者たちのカリスマであったのは大江健三郎だったことがわかる。それが現代では有吉に代わっている。
何か月か前に『アメトーク』というテレビ番組を見ていたら、女優の北川景子が出演していて、その場にいた有吉に対して完全なファン目線での愛の告白とも受け取れる発言をしていて、有吉があわてふためく、というシーンを見ながら、若さと美しさをあわせ持った文学少女たちは今は有吉に自分の切ない夢や幻想を投影している、と実感した。
しかし、有吉は決して映画を作ったりはしないだろう。
お笑い芸人が芸術に近づくことは24時間テレビに出演することと同じくらいに危険で芸人としての死を意味する、という戦略で動いている有吉にとっては、北野武やダウンタウンの松本などはすでに終わっている存在なのだろう。
お笑い芸人としては確かに今や面白くも何ともないたけしだが、ヨーロッパでの映画の評判の良さは一体どういうことなのだろう、と思い続けていた。
『アキレスと亀』以外は全部見たはずだが、北野武映画は観客が入らない映画であり続けていた。映画館に入って10人以上観客がいたことは一度もなかったはずだ。一部の批評家には評判が良かったものの、本当に面白いと思った作品は一本もなかったような気がする。
ラジオでのビートたけしのファンであり過ぎたせいで、映画を承服しがたく思っていたのかも知れない。
しかし、今回の『アウトレイジ ビヨンド』の作り物めいてリアリティが感じられない行き当たりバッタリのストーリー展開を見ながら、
映画はこのくらい適当な物語の方がちょうどよくて面白いのかも知れない、と思った。
強面ぶった俳優のコスチューム演技によるコメディ映画のようでもある。
お笑い芸人の作った意味ありげな演出に引っかかるとはヨーロッパ人の知性も大したものではない、などと北野映画を軽く考えてきたが、
北野武はすごい映画監督であるのかも知れない、あるいは今後すごい監督になる予感がする、とも思って面白かった。
公式サイト(日本)
今回の悪役は前作で経済ヤクザ路線で新鮮なイメージを与えた加瀬亮が演じる石原だったが、今回は経済ヤクザとしてのさえた場面がなく、常にイライラして部下を怒鳴りつけているだけの男だった。
物理的な暴力の場面では経済ヤクザでは弱々しいので、あまり迫力もない。
経済ヤクザの凄味が垣間見えるような場面がひとつくらいあったほうが良かったような気もする。
韓国系のヤクザを演じる白竜が相変わらずカッコいい。哀川翔や竹内力が何とも中途半端におかしな感じになってしまった現状では、白竜のハードコアな怖い感じは貴重なものに思われる。
田中哲司の、だまっていると雰囲気があるが、しゃべり出すと途端にダメになる感じも面白かった。
中尾彬の大物ぶっているが実は気の小さい小物ヤクザの姿も面白い。全体に出ている俳優は面白くて良かった。中野英雄の白々しいメイクにも関わらず味わいのある演技も良かった。
桐谷健太と新井浩文はもっとやれる役者なだけにちょっともったいない使われ方をしてしまった、という印象が残る。
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