★　『LOOPER/ ルーパー』

2012年。アメリカ。"LOOPER".
　　ライアン・ジョンソン監督・脚本。
　デビュー作の『BRICK ブリック』を見たときに、探偵小説やノワール映画へのあこがれをストレートに出しながら、全体には自分自身の青春を形象化した学園映画として製作されていることに好感を抱きつつも、特に目立ってすぐれたところもないような気がして、これは一発屋映画として消え去るのだろうと思っていたら、
　『BRICK ブリック』の主役だったジョセフ・ゴードン＝レヴィットが『（５００）日のサマー』でブレイクしたことの効果か、監督のライアン・ジョンソンも脚光を浴びることになり、
　まさかの第二作目、『ブラザーズ・ブルーム』が登場した。レイチェル・ワイズやエイドリアン・ブロディや菊池凛子などのスター俳優を使って製作された詐欺コメディの『ブラザーズ・ブルーム』は面白くなりそうで、それほど面白くはならないという微妙な映画だったが、
　『スティング』などの詐欺コメディに敬意を表しつつも、詐欺コメディは形だけで映画を創ることへの愛と憎しみ、絶望などを深刻にならずにさらっと描いていて良い印象を持った。
　ストーリーテラーとしてはかなりの潜在能力を持っているのではないのか、とも思われた。
　デビュー作から新作まで一貫して出演し続けているジョセフ・ゴードン＝レヴィットとは、一時期のガス・ヴァン・サント監督とマット・デイモンとの関係のように、監督と俳優という関係にとどまらず、お互いにレスペクトしあっている共同製作者で同志のような関係にあるようで、今後の二人の共同作業にも期待を持たせられる。
　ちょっとアメリカ版の内田けんじ監督みたいなイメージもあるところが不安要素ではあるような気もする。

　そうして発表された『LOOPER/ ルーパー』だが、オリジナルの脚本も監督みずから書いているところも内田けんじ監督っぽい。お手本にしている映画に共通しているものが多いのかもしれない。
　SFのつじつま合わせにはそれほど関心がないようで、超現実的な事態から引き起こされる面白さだけに注意を払っているような物語は探偵小説マニアらしいパズルみたいな細部にていねいにこだわった展開を見せる。『ドラえもん』と同じようなスタイルのようだ。
　面白かったが、印象が弱いのはこれまでのライアン・ジョンソン監督作品と共通している。
　印象が弱いというより、ノワールのようでノワールというわけではない、詐欺コメディのようで詐欺コメディだけではない、SFのようでSFに主眼が置かれているわけではない、という作り方に違和感を感じたせいだろう。

　オリジナルで面白い物語を作りたいという欲望の点では、内田けんじ監督の『鍵泥棒のメソッド』と並べてみれば、はるかによくできているように映るので、これはこれで成功しているのかもしれないが、まだ習作段階というイメージがあるのは、これからもっと面白い映画を作ってくれそうな期待があるからなのかもしれない。
　しかし、ビリー・ワイルダー監督の映画でもエルンスト・ルビッチ監督の映画でもそれが発表された当時は、面白いがただそれだけの作品で取るに足らない娯楽商品だとみなされていたのではなかろうか、そう考えると、この『LOOPER/ ルーパー』も後年になり、こんなに面白い映画があったと言われるようになる可能性は低くはないはずだ。
　この映画を傑作だとみなせる能力が私には備わっていない、ということのあらわれなのかもしれない。
　　　　　　IMDB 　　　　　　　　公式サイト（日本）

　エミリー・ブラント、パイパー・ペラーポなど演技派というわけでもない地味で玄人好みの女優のキャスティングに監督の趣味が反映している。
　ジェフ・ダニエルズやポール・ダノのチョイ役での登場が物語に深みをもたらしていた。特にポール・ダノの登場しての第一声で、「ああ、トラブルメイカーのダメなやつがここにいた！」と思わせられる存在感は大したものだった。

　ジョセフ・ゴードン＝レヴィットのひ弱なようでそこそこタフガイを演じることもできる器用さがこの映画でも際立っていた。肉体の訓練を欠かさないストイックな俳優生活がうかがわれる。みずから監督をするコメディ映画の新作と、再びブルース・ウィルスと共演する『シン・シティ』の第二作目の公開を楽しみに待ちたい。

　１９７０年代の古いR&Bの味わい深い主題歌（CHUCK&MACという知らない歌手）や、ハードボイルド小説マニアらしいウォーレン・ジヴォンやリチャード・トンプソンなどのメジャー映画らしくない選曲も素晴らしい。
　オーソン・ウェルズやイングマール・ベルイマンが大好きだというライアン・ジョンソン監督の新作も楽しみにしていたい。