2012年。アメリカ。"FUN SIZE".
ジョシュ・シュワルツ監督・製作。
かつてビースティー・ボーイズのアルバムのレコーディング・エンジニアとして働いていた父親を亡くした悲しみを、父親の形見だったデフジャム・レコーディングスのブルゾンを着ることで哀悼の意を表明しているけなげな少女、 レン(ヴィクトリア・ジャスティス)は、
高校で一番のイケメン男子で、すでに神の領域に到達したような伝説の男、アーロン・ライリー(トマス・マクドネル)からハロウィーン・パーティーの誘いを受ける。
自分みたいな地味なオタク女子はアーロンとはつり合わないと、いじけていたレンだったが、何とアーロンはレンに恋していたのだった。パーティ当日にはレンのために自作のバラードを歌い踊って愛を告白するとまでアーロンは言う。
狂喜乱舞して自作のラップを披露するレンだったが(異常にうまい)、ハロウィーンの日には、母親も年若いボーイフレンドのパーティーに出かけるので、幼い弟の子守をするように命令されてしまう。
父親の死以来、沈黙の誓いを守って一言も口をきかずに悪質ないたずらばかりをしている弟アルバート(ジャクソン・ニコル)のお守りをしながら、親友のエイプリル(ジェーン・レヴィ)とハロウィーンで大騒ぎの街をさまよいながら、何とかアーロン・ライリーのパーティー会場までたどり着こうとするドタバタ騒ぎを描いたコメディの佳作。
2012年にビースティー・ボーイズのMCAが亡くなったことで、期せずしてビースティー・ボーイズのMCA追悼の映画となってしまった。
クライマックスで、女性差別主義者の極悪人ヨルゲン(『ジャッカス』シリーズのジョニー・ノックスビル)をやっつける場面で、ビースティー・ボーイズの往年のヒット曲、『ファイト・フォー・ユア・ライト』が流れる。
ビースティー・ボーイズに感化されたことのある人には涙なしには見ることの不可能なシーンだろう。
ヨルゲンことジョニー・ノックスビルをやっつける前に、アナログレコードのぼうだいなコレクションを所有するヨルゲンに、レンが「ビースティー・ボーイズのアルバムは持ってるの?」と質問すると、「当然だよ。彼らは俺にとってのレジェンドなのさ!」と語って、レコード棚からビースティー・ボーイズのデビューアルバム、『ライセンス・トゥ・イル』を取り出す。
「中のクレジットを見てよ。」とレンが言うと、そこにはレンの父親の名前が印刷されていたのだった。
一瞬、レンのことを見直して尊敬のまなざしで見たヨルゲンとレンとの間に奇妙な友情と連帯感のようなものがただよったが、しょせんはクズ人間のヨルゲンなので、レンの大切にしていたデフジャム・レコーディングスのブルゾンを奪い取ると、再びドタバタ騒ぎが引き起こされる、というほのぼのした調子のコメディ演出が意外とさえている。
IMDB
レンのオタク仲間のルーズベルト(トーマス・マン)はひそかにレンに恋していたが、告白する勇気が持てないでいた。ハロウィーンの街の大騒ぎの中で弟のアルバートが行方不明になってしまい、仕方なくレンはルーズベルトに捜索を手伝ってもらうはめになる。
ようやくアーロン・ライリーのパーティー会場にたどりついたレンだったが、アーロン・ライリーの愛の告白の自作の歌が、意外にしょぼくて残念な出来だったのはおかしかった。
ハロウィーンの狂騒の中で、やがてレンは自分が本当に愛するべき相手はすぐ身近に存在していたということを発見する。
ルーズベルトの親友の中国人ペン(オスリック・チャウ)や、レンの母親で夫を亡くした悲しみを若い恋人と女子高生のコスプレをして自分を見失っているジョイ(チェルシー・ハンドラー)、弟のアルバートが大好きなアメコミの主人公ギャラクシー・スカウトのコスプレをした心優しい女性(リキ・リンドホーム、ちょいエロい)、コンビニ店員でレンのヨルゲン退治を手伝うファジー(トマス・ミドルダッチ)など、強烈な個性のキャラクター設定にも工夫があって、楽しい作品になっていた。
日本ではそれほど盛り上がらないハロウィーンという行事がアメリカ合衆国ではこれほどに盛大なお祭りだということがわかる文化的ショックだけでも役に立った。
2010年代のアメリカのドラマや映画の最大の注目女優、ヴィクトリア・ジャスティスの日本での初お目見えの作品として後年話題になることもあるかも知れない。
監督のジョシュ・シュワルツは人気テレビドラマ『ゴシップガール』の企画・製作・脚本を担当している人物で、登場人物のキャラクターの描き分けにはさすがに手馴れたものがあった。
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