★　『ゾンビ・ヘッズ　死にぞこないの青い春』

2011年。アメリカ。"DEADHEADS".
　　ブレット＆ドルー・Ｔ・ピアース（ピアース・ブラザース）監督・脚本。
　これまであるようでなかった切ない系の純愛ゾンビ青春映画。
　ジョージ・Ａ・ロメロの『ゾンビ』が製作されてから４０年以上が過ぎ去り、これまではゾンビ映画など作ってこなかったイスラム諸国や中南米、ヨーロッパ各国でも次々にゾンビ映画が製作されているようだ。
　近年でもっとも印象に残っているゾンビ映画は、パキスタン製作の『パキスタン・ゾンビ』だった。
　井筒和幸監督の『黄金を抱いて跳べ』にも引用されていたフランス製ゾンビ映画、『ザ・ホード　死霊の大群』も忘れがたい。同じくフランス製の『フェーズ７』も低予算なりの努力のあとがうかがわれて良かった。
　ノルウェーの『処刑山　デッドスノウ』も面白かった。
　忘れてはならないのは、正確にはヴァンパイア映画であるが、スウェーデン製の傑作、『フロストバイト』だった。
　『フロストバイト』は、見た当初はしょぼい映画だなどと固定観念にとらわれてそのすばらしさを理解できていなかったが、年月を経るにつれて、その偉大さをひしひしと感じてくるようになった。

　日本でもゾンビ映画はいくつも作られてはいるが、今のところ、これといった佳作にはいまだに出会っていない。ゾンビの特殊メイクに金がかかるために思い切ってそれを省略したかのような石井岳龍監督の『生きてるものはいないのか』は、ゾンビ映画の一種だと考えるならば、かなりいい線いっていたような気がする。

　しかし、ゾンビ映画であれば企画が通りやすいという事情も関係しているのか、ひどい出来のゾンビ映画も山のように存在する。あまりに最低の出来ばえのゾンビ映画を見すぎたせいで、もはやゾンビ映画と聞いただけで無条件にスルーしてしまうことも少なくない。
　個人的には、『ハウス・オブ・ザ・デッド』その他のウーヴェ・ボルと『バイオハザード』シリーズのポール・Ｗ・Ｓ・アンダースンの二人がゾンビ映画の低レベル化に最大の貢献をなしてきたような気がする。
　この二人が演出するゾンビもどき映画は本当にひどかった。

　そういう世界的なゾンビ映画の興隆に対して、アメリカ合衆国はどのような状態にあるのか、
　やはりジョージ・Ａ・ロメロの遺産を受け継いでいこうという志の高さは多少感じられるものがあるが、それでもしょぼい映画が大半を占めている。
　『ネズミゾンビ』や『フェーズ６』は健闘していたが、やはりつまらなかった。ウェス・クレイヴンをレスペクトするフランス人監督アレクサンドル・アジャの『ヒルズ・ハブ・アイズ』がすばらしかったくらいしか思い出せない。

　そんな閉塞的な状況に登場したのが、この『ゾンビヘッズ』だった。
　ゾンビを導入すれば、古くさいジャンル映画でも再び生き生きとよみがえらせることが出来る、という発見を最大限に利用したような作品がこの『ゾンビヘッズ』だった。
　今では死滅したかにみえる一途な愛に生きる純愛青春ドラマが、ゾンビによって語られている。
　ストーリーはきわめてベタだが、ゾンビのユーモアでそれなりに面白いドラマになっていた。
　登場人物ひとりひとりの細部にこだわった微妙なキャラクター設定にも好感が持てて、笑いを誘う。
　　　　　　IMDB　　　　　　　　　公式サイト（日本）

　弱小プロダクションによる製作で、無名の俳優ばかりだったが、熱意は伝わってくる。
　ゾンビを使って、ハッピーエンドの純愛ドラマを作ろうという発想は面白かったが、厳しい資金と厳しいスケジュール、スタッフや俳優たちのハードな生活環境を反映してか、（おそらくこの映画にかかわったスタッフ全員は相当にきつい貧乏な生活を強いられているのだろう）、
　次第に自家撞着の気配も見えてきて、観客に向かって語りかけるラストシーンでは、「リアリティなんてどうでもいい。問題は俺たちが最後まで映画を作り上げることに成功したということだ。」とでも言っているように見える。
　そうなると、新機軸のゾンビ映画を見ていた観客は、ゾンビのことを忘れて、「よくぞ立派に映画という困難な作業をやり遂げたものだ。」という奇妙な感動をおぼえてしまった。