2011年。映画「一命」製作委員会。"HARA-KIRI: Death Of A Samurai".
三池崇史監督。滝口康彦原作。
『十三人の刺客』のときと同じくオリジナル版は見ていないので、それが良かったのかも知れない。
市川海老蔵が映画俳優としてはどうなのか、ちゃんとスクリーン映えする姿形として存在できているのか、という点のみに興味を抱いて見てみた。
そして、スター誕生の瞬間を目撃した。本業が映画俳優ではないとしても、黒澤映画での三船敏郎のように、どっしりとした、しかも素早い身のこなしの光り輝く存在として、スクリーン上に新しい俳優がいることで、映画館自体が活気づいたような心持ちがしたことだった。
しかし、もうひとつの興味の対象であった満島ひかりが目立たない。これはどうしたことだろう。まんじゅうを食べる場面に満島ひかりらしさがかすかに感じられはしたものの、全体に地味で、これはミスキャストではないかとさえ思われたほどだった。
やはり、満島ひかりは現代を舞台にした映画でのみ持ち味を発揮するのか、あるいは演出に不手際があったのか。
しかし、死体の横でまんじゅうを食べる場面は異様な悲壮感と同時にホラーな雰囲気もあって、強く印象に残る。
『十三人の刺客』は、今となっては、面白かったがあまり印象に残らない映画と化してしまっているので、三池監督の時代劇に何も期待はなかったが、
現在の情況にも対応するような現代劇風の時代劇を作ったことは意外で、面白かった。
復讐の対象が、特定の個人ではなく、組織や制度と、それに従順に従う人々に向けられていることで、市川海老蔵の眼光の鋭さが生かされている。
作品の出来自体は、ちょっと似ていたところのある『必死剣 鳥刺し』に劣るような気がしないでもない。冗長に感じるところもあって、途中で何度かうとうとしかけていた。
悲劇の演出も、殺陣の演出も、決してすぐれているとは言えないような気がする。
瑛太の異様に長い時間をかけた、むごたらしい死にざまの描写に三池監督らしさが発揮されてはいた。
市川海老蔵というスター俳優の誕生を祝福する映画としてはパーフェクトだったので、いろいろ気になる点はあったものの、これでいいのではないだろうか、とも思った。
公式サイト(日本)
IMDb
海老蔵が、見る者をひきつける魅力をスクリーンの上でも発揮できたことが映画の成功のほとんどの要素を占めているようだった。その分、瑛太と満島ひかりは引き立て役にならざるを得なかった。
瑛太をむごたらしく辱めた後で死に追いやる悪役の三人が、青木崇高はがんばって憎々しげに演じてはいたものの、新井浩文と波岡一喜が何かパッとしない。演
出上の問題か物語上の設定なのかもしれないが、新井浩文に至っては、視線の定まらないおどおどした表情のみが印象に残っている。
役所広司はいつも通りとも、新境地を切り開いたとも、どっちにも評価されるような悪役のようで悪役でない、善なる人のようで善でない微妙な役だったが、まあ普通だった。竹中直人が目立たなかったのは良かった。
ちょっと海外市場や、海外の映画祭を意識し過ぎた映画のような気がしたが、溝口健二監督の映画も黒澤明監督の映画も、多くはそういう傾向を持っているので、似たようなものだろう。
改めて思ったことは、三池崇史監督に過大な期待を持つべきではない、という事実だった。期待しないでいると、ときどき観客を驚かせてくれる貴重な存在でもあるので。
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