2011年。アメリカ。"SOURCE CODE".
ダンカン・ジョーンズ監督。
姉のマギー・ギレンホールとともに、柔軟性に富んだ演技スタイルで、さまざまなジャンルの映画に出演し、好調の波を維持し続けているジェイク・ギレンホールが主演、というだけで、映画の格式の高さを確信してしまう。こんな俳優は、いまジェイク・ギレンホール以外には存在していないに違いない。
穏やかな美貌と知的なたたずまいのミシェル・モナハンが相手役というのも理にかなった感じがする。
いろいろ考えさせられて、相当に面白かった。
列車という舞台装置が映画においてはいまだに魅力的なものだということを、改めて認識させてくれた点もすばらしい。
それがたとえ通勤電車であったとしても、窓があって外の景色が動いていく(ように見える)からには、映画館で映画を見ることに近い状況が引き起こされる、乗客は近くの見知らぬ乗客の顔に何かを読み取ったり、移り変わる外の景色に物語を意識したりする環境が変わらない限りは、列車は今後も映画で活用され続けるのだろう、
映画館の支配人よりも、列車の車掌のほうがより映画的な環境で生活している、と思ったりしたことがあったのを思い出したりもした。
ダンカン・ジョーンズ監督の前作、『月に囚われた男』とよく似た設定の、自分の自己同一性が不安定な主人公が目ざめるところから物語は始まる。
それまでのオープニングの場面は列車が走る様子を空中撮影でさまざまな角度から撮影したもので、音楽の効果でこれはサスペンス映画なのだな、とわかる仕組みになっている。
SF映画でもあり、タイムマシンものの一種だが、現代風に身なりを整えてある。
タイムマシン映画の約束事は過去の出来事を変えてはならない、ということだが、この映画では、主人公はテロリストによって爆破された列車の乗客の死体の脳の記憶の中に侵入するだけ、という制限があらかじめ設けられており、過去は変えようがないという悲劇的な情況に主人公は閉じ込められている。
ひとりの乗客の脳に残った最後の8分間の記憶の中で主人公のジェイク・ギレンホールがもがき苦しむ物語だが、物語のバランスが良くて、誰にでも理解できるように『ドラえもん』のようなわかりやすい説明しか与えられない。
SFとしては矛盾だらけで混乱するが、『ドラえもん』だと思えば、陰惨で希望の見えない物語にも同化できる。
これだけわかりやすくすると、つい「生きる意味とは何か」といった内省的な方向に傾きがちになりそうなところを、うまくかわして、娯楽作品としての質を保っているところにダンカン・ジョーンズ監督の知性を感じる。
同じ列車もの映画で、アンドレイ・コンチャロフスキー監督の『暴走機関車』という映画があったが、あれは内省的な方向に傾きすぎた結果の失敗の見本のようだった記憶がある。
体裁はあくまでも低予算のB級娯楽SFサスペンス映画だと言い張り続けているが、実際にその通りの映画として楽しむことが出来るし、それだけではない何かを観客の心に残すことにも成功している、ように見えた。
IMDb
公式サイト(日本)
ジェイク・ギレンホールは何と素晴らしい俳優だろう、という感動がいちばん大きかった。それを受けるミシェル・モナハンも素晴らしい。
ふたりの恋物語を盛り上げるための脇役に徹したヴェラ・ファーミガとジェフリー・ライトも繊細な演技で、つじつまが合っているのか合っていないのか謎の多い設定に説得力をもたらして、細かいことは気にせずストーリーに入り込むことを可能にしていた。
低予算でもこれだけ豊かな想像力に満ちた映画を作ることが可能なのだ、と思って、ダンカン・ジョーンズ監督の次回作が楽しみになった。
評論家の町山智浩さんがビル・マーレイ主演の『恋はデジャ・ブ』が全く同じテーマを扱っていると言っていたが、見たことがないので今度見てみようと思った。
- 恋はデジャ・ブ [DVD]/ビル・マーレー,アンディ・マクドウェル,スティーブン・トボロウスキー
- ¥1,480
- Amazon.co.jp
- ゾディアック ディレクターズカット [Blu-ray]/ジェイク・ギレンホール,マーク・ラファロ,ロバート・ダウニー・Jr.
- ¥2,500
- Amazon.co.jp
- ゾディアック ディレクターズカット [Blu-ray]/ジェイク・ギレンホール,マーク・ラファロ,ロバート・ダウニー・Jr.