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★ 『ローマの哀愁』

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1961年。アメリカ。"The Roman Spring Of Mrs. Stone".
  ホセ・クィンテーロ監督。テネシー・ウィリアムズ原作。
 テネシー・ウィリアムズの『ストーン夫人のローマの春』という怖ろしくて残酷な小説を映画化した作品で、舞台では何度も上演されているらしい。
 聞いたことのない監督の名前に興味をもってIMDBを見てみると、この監督はこの一本しか映画を監督していない。その後いくつかテレビドラマの演出家をやった後に業界を去ってしまったようだった。 本職はブロードウェイの舞台演出家らしい。

 主演のヴィヴィアン・リーが『風と共に去りぬ』で脚光を浴びたのが1939年、それから20年後に製作された映画で、彼女はすでに47歳となっていた。肺の病気や心の病などで苦しんでいた時期の映画で、この映画の6年後には、ロンドンのアパートで孤独に亡くなっているのが発見されている。
 そういうヴィヴィアン・リーのプライベートなゴシップを考え合わせると、この映画への出演は、彼女の一世一代の決心による、命をすり減らす覚悟での捨て身の登板だったようにも見えてくる。
 あまりにも自分自身そのものの役柄を演じることのつらさは想像を絶している。

 ロマンチックな日本語タイトルとは違って、この作品は一種のホラー映画でもある。自分がもう若くないと自覚し始めた女性の中には、恐ろしさのあまりに、劇場を飛び出して逃げ去った人もいたかも知れない。
       IMDB
映画の感想文日記-romans01
 何年間もロングランを続けている人気舞台劇のステージの楽屋で鏡を見つめて、自分が昔みんなからちやほやされていた頃の美貌をとっくに失ってしまっていることを自覚したキャレン(ヴィヴィアン・リー)は、突然すべてがいやになり、舞台出演はこれっきりにして引退を決意する。
 若くぴちぴちした肌をもった新人女優が、キャレンに「あなたは私の永遠のあこがれです。」と言ってきても、もはやいやみにしか聞こえなかった。

 時を同じくして献身的に彼女につくしてきた夫が心臓発作で死んでしまう。莫大な遺産を相続したキャレンは、彼女のことを知らない人の多いイタリアへ移住して、ローマの最高級のアパートで孤独に余生を過ごそうと決意する。
映画の感想文日記-romans02
 ローマの社交界で悪評高いマグダ伯爵夫人(ロッテ・レーニャ)は、さっそくキャレンが遺産とともにローマに移住したことを聞きつけて、キャレンのアパートを訪ねる。
 伯爵夫人にはなぜか若いハンサムな青年パオロ(ウォーレン・ベイティ)が同行していた。
 伯爵夫人は実はお金に困っており、孤独でお金持ちの女性に若い男を紹介しては、お金を引っ張れるだけ引っ張ってこさせる、というあくどい商売で生計を営んでいたのだった。
 伯爵夫人役のロッテ・ネーニャ(『三文オペラ』の作者、クルト・ヴァイルの妻)は、この映画での迫真の演技によって、アカデミー助演女優賞候補になっている。
映画の感想文日記-romans03
 はじめは伯爵夫人の策略を察して、うんざりして二人を追い返したキャレンだったが、伯爵夫人には長年の経験の蓄積から、孤独な女がどのようにすれば男に引っかかるかという技術が身についていた。

 街で偶然出会ったふりをして話しかけたり、こんな仕事をしているが、夢は別にあり、生き延びるための手段だと割り切っている。孤独な魂をかかえて生きていると見せかけるために、さりげなく不幸な生い立ちを推測させるような言葉を口にする。
 知性や教養がないわけではないことを示すために、書店で難解な詩人の書物を手にしているところをキャレンが偶然眼にするように用意周到な計画のもとに実行したりする。

 若い頃のウォーレン・ベイティ、当時23歳)は完全に役柄になりきっている、というよりもこのまんまの男だったのだろう。若く野望に満ちており、軽薄で他人を見下した態度で、自分の壮大な夢を語りたがる。
 全身からただよう色っぽさは、男の眼から見ても並外れているように映る。
 ほとんど歩くセックス・マシーンだと言っても良いような感じだ。
 角度によっては、ちょっと嵐の松本潤に顔つきが似ている。松本潤をセクシーで軽薄なホストにしたような雰囲気がある。
映画の感想文日記-romans04
 伯爵夫人の策略とパオロの女性をだますテクニックの見事さによって、ついにキャレンはパオロを恋人として受け入れる。
 パオロの甘い愛のささやきと、ベッドでのテクニックによって、キャレンはたちまち身も心もパオロのとりこになる。
 孤独なキャレンはパオロを自分の唯一の理解者だと信じて、パオロが欲しいと言えば、お金でも高価な宝飾品でも何でも手渡し続けた。

 知人たちの前では、ばかな色ぼけ女のおかげでぜいたくな暮らしが出来るようになった、とうそぶくパオロだったが、パオロも実はただのばかな青年ではなかった。
 キャレンの孤独な心に自分の孤独が共鳴する瞬間を感じたパオロは、彼女から金品をだましとる生活を恥ずかしいと思い始める。彼はいつの間にか本当にキャレンを愛し始めていることに気づいたのだった。

 パオロが自分の手元から離れてしまいそうだと敏感に察知した伯爵夫人は、ハリウッドからローマに撮影に訪れた若い新人女優バーバラ(ジル・セント・ジョン)を紹介する。
 「あんなおばあさんと付き合うのはやめて、つりあった相手を恋人にしなさい。」と言ってパーティーの席を用意した伯爵夫人だったが、
 偶然そこには知人と食事をしているキャレンがいた。
 パオロとバーバラが話している姿がいかにもお似合いの恋人同士だと思い込んだキャレンは、パオロを口汚くののしった後、涙を流しながらその場を立ち去る。そして、パオロに二度と私の部屋に来ないでと別れを告げる。キャレンはパオロに説明するすきさえ与えなかった。

 自分の愚かさと孤独さなどのすべてに絶望したキャレンはアパートの最上階のベランダからローマの街を見下ろす。キャレンが移住してきた当初から、アパートの近くの街角にはお金持ちをつけ狙っていると思われるみすぼらしい身なりの若い男がストーカーのようにキャレンのアパートのベランダを凝視していた。かつてはあの男もパオロみたいなことをしていたのかも知れない。
 そして、キャレンは街角の若い男の方角へ部屋の鍵を投げ落として目配せする。
 「私を殺して、金品を奪ってもいいのよ。」という無言のメッセージだったのだろうか。やがて深夜になり、音もなく部屋の扉が開いた。そこにはナイフを手にした街角の若い男が立っているのだった。

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