2012年。「桐島」映画部。日本テレビ。集英社。
吉田大八監督・脚本。朝井リョウ原作。
評価の高さを反映してか、幅広い年代の観客が数多くつめかけていた。
映画を見ながら連想したのは、『パリ20区、僕たちのクラス』だった。用意周到さは『パリ20区、僕たちのクラス』に匹敵する。あの映画は、撮影の前に7ヵ月間のワークショップをおこなって、生徒たちが実際のクラスメイトのようになったところで撮影が開始されていたので、フィクションなのかアクシデントをそのままドキュメンタリーとして撮影しているのか区別がつかないほどの作品になっていた。
『桐島、』の撮影に際しても、1ヶ月間ほどのワークショップが実施されたらしい。そのためか、生徒たちがひとつの学校の任意のひとつのクラスに所属している、という実在感が強く感じられる。
生徒ひとりひとりのキャラクターは複雑で、また人間関係も入り組んでおり、一度見ただけでは全体像を把握することはほとんど不可能に近い。
こんなに濃度の高い物語がつまった映画を見たのは、いつ以来だろう、ベルナルド・ベルトルッチの『1900年』を見て以来かも知れない。それはちょっと大げさか。
DVDになったら再び見直して、生徒たちの人間関係や感情の動きを解読していくという楽しみも待っている。
リチャード・リンクレイター監督の青春コメディ、『バッド・チューニング』を思い出した。群像劇的なつくりが少し似ていたのかも知れない。しかし、『バッド・チューニング』より、『桐島、』のほうがはるかに優れた人間ドラマであることに疑いの余地はないはずだろう。
グレッグ・モットーラ監督の『アドベンチャーランドへようこそ』と並べても、多少はひいき目にしても、見劣りしない気がする。
アメリカ映画では当たり前だった学園内の階級社会を、日本映画でほとんど初めてのように正面から取り上げた作品としても記念碑的な価値を持つかもしれない。
日本の高校ではアメリカほどには露骨な階級社会は見えにくい情況なので、カースト制度はあいまいに映るが、体育会系と文科系、帰宅部、学園のスター的存在、誰からも相手にされない生徒、いけているグループといけていないグループなど細分化された属性に誰もが例外なしにはめこまれてしまう残酷さはアメリカも日本も共通している。
自分ではいけているつもりでも、学園内秩序の残酷な関係の絶対性がその人の意思に関係なく階級を決定してしまう。その傾向はこれからますます強まるような予感もする。
一見した印象としては、『パリ20区、僕たちのクラス』と『初体験 リッジモント・ハイ』と『アドベンチャーランドへようこそ』をまぜこぜにして、いいとこ取りをしたようなくらいに素晴らしい映画だった。
もう一度見直してみると、また印象が変わって、案外大したことなかったということになる可能性もないとは言い切れないのが不安要素で、いろいろ不満なところもあるにはあった。
公式サイト(日本)
この映画が感動的だった主な要因は、出演している若手俳優の力が並外れていたからで、素晴らしさの90パーセントくらいはワークショップを経験した俳優の存在に依存している。
宏樹を演じる東出昌大という俳優の表情や動き、せりふのひとつひとつだけでも極上の映画とはまさにこれだ、と言いたくなるほどだった。
ゾンビ映画の製作のエピソードはJ・J・エイブラムズの『SUPER 8/スーパーエイト』とかぶっているが、『スーパーエイト』のダメさと比較すれば、この映画の優位はゆるがない。
ただし、エル・ファニングみたいな輝かしい星のような女優が出ていなかったことが全体に地味なイメージを与えてしまっていたようだった。橋本愛はかなり輝かしくは見えていたが。
緊密な関係にあるクラスメイトの中でとび抜けて光り輝く俳優は、こういう作りの映画では出て来ようがないので当たり前なのだった。
女優陣がダメだったのではなく、適材適所にすばらしい俳優がいた。ほぼ全員が単純ではない掘り起こし甲斐のある深みをもったエピソードを持っていて、学校もまた現実と地続きの社会のひとつなのだという感慨を呼び起こす。ひとりひとりの生徒をそれぞれに主役にして、スピンオフ的な短編映画集を作ってもらいたいような気持ちにもなった。
同じ時間を違った視点から何度も語りなおす、というやり方はそれほど面白くなくて、あまりうまくはいっていないような気がしないでもない。
一度も登場しない桐島という不在の一点を中心にドラマが展開する、というのも何か新鮮さに欠けるような気がする。映画の造りの根本的な部分なので、よく理解できていないだけか、あるいは眠気と戦っていたので、集中力が足りなかったのだろう。
いずれにしろ、DVDが発売されたらさっそく見直してみるつもりでいる。
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