2009年。韓国/フランス。"UNE VIE TOUTE NEUVE. (A BRAND NEW LIFE.)".
ウニー・ルコント監督・脚本。イ・チャンドン製作。
孤児院(児童養護施設)が舞台の映画には傑作が多い。『この道は母へとつづく』、『オリバー・ツイスト』などが思い浮かぶが、長い間、孤児院ものの最高傑作は『サイダーハウス・ルール』だと思い込んでいた。
好調だったころのトビー・マグワイアや、マイケル・ケインの演技に打ちのめされて、椅子から立ち上がるのに苦労したほどに感動で震えていたことを思い出す。
もともと孤児院ものの物語には弱くて、キムタク主演の『エンジン』というテレビドラマを毎回見苦しく泣きながら見たりしていた。
しかし、この『冬の小鳥』を見たからには、これまでの序列はすべて崩れ去った。
この映画こそがナンバーワンの称号を授与されるにふさわしいような気がする。
なぜ、これほどに素晴らしい映画を作ることが可能だったのだろうか。この映画のどこかには天才が潜んでいるのか。果たして天才は、監督か、脚本か、俳優の誰かか、それとも別のスタッフか、
しかし、ちょっと冷静になってみると、天才などどこにもいないことがわかる。
『サイダーハウス・ルール』と比べてみても、特にとび抜けてすぐれた要素はないようだ。
天才とは、この映画の企画から始まり、製作が進行して、撮影が終わり、流通ルートに乗って全世界に配給されて、観客がそれを見る過程の全部が天才であるに違いない。そうとでも考えなければ、この映画の魔術のような魅力の説明はつかないような気がする。
確かゴダールか誰かが、インタビューで、映画の撮影現場は一種の地球上に出現した楽園のような夢の時間だというようなことを言っていたのを雑誌か本で読んだ記憶がある。ゴダールがそんなことを言うふうには思われないので別の誰か、ロマン・コッポラあたりだったかも知れない。
『冬の小鳥』とは、撮影現場だけでなく、その夢のような時間が末端の消費者にまで届いてしまった映画なのだろう。
演出は確かにすぐれていた。
足に障害があり、片足を引きずって歩く年長の娘(コ・アソン)が、さりげなく画面の隅っこにいたり、後方から画面の前方に歩いてくるショットの、何も効果など意識していない感じだけでも恐ろしく感動的だった。
コ・アソンは施設を訪れる郵便配達夫に恋をする。せりふはほとんどひと言もないままに、想いは届かず失恋して自殺未遂をくわだてる。
養子として愛情豊かな家族の一員になることもなく、どこか辺境の地の工場か調理場のようなところで、現在もコ・アソンは、穏やかな表情を浮かべながら懸命に働いているに違いない、と思ってしまう実在感がある。
IMDB
公式サイト(日本)
自分が孤児だという現実をかたくなに拒否するジニ(キム・セロン、韓国版の芦田愛菜、というよりもワンランク上のアビゲイル・ブレスリンくらいの力は持っていそうに見えた)は、スッキ(パク・ドヨン)と親しくなり、けがをした小鳥を一緒に介護する。
スッキの出立や、小鳥の死などを経験して、ジニは現実を受け入れて自分自身の人生をつかみとろうと決意する。
主演のキム・セロンだけでなく、登場人物のひとりひとりが巧妙に深みのあるパーソナリティを持っているように演出されていた。単純で短いアクションで全部を見せたように観客に錯覚させる手際の良さは、『わが町』の川島雄三に匹敵するかも知れない。
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