2013年。フジテレビジョン/アミューズ/文藝春秋/FNS27社。
西谷弘監督。福田靖脚本。東野圭吾原作。
一見した印象は、ストーリーは異なるものの、ハリウッド版の『ドラゴン・タトゥーの女』を果てしなくしょぼくして、劣化コピーを繰り返した末に引き伸ばして映画にした商品、といったものだった。
物語も演出もダメな部分が目立ちすぎるのが難点だが、それではつまらない映画として打ち捨ててしまえば良いかというと、これは映画であるからにはちゃんと見所もあるから楽しみがある。
大きなスクリーンで見る俳優の姿かたちはテレビとは異なった様相を呈している。
探偵というより、カトリックの神父のように犯罪に関わった人々の心のわだかまりを解きほぐして救済を与えていく主人公、湯川学を演じる福山雅治の無敵な存在感はどこから生じているのだろうか。
テレビなどのメディアに露出しつづける俳優やタレント、ミュージシャンは徐々にそのカリスマ性や希少価値を薄めていくものだが、福山雅治だけはなぜか全盛期のジェームズ・スチュワートのような出てくるだけでありがたい、格調の高さを維持しつづけている。
他に比較する対象がいないので、もはや演技がうまいのか下手なのかさえ判断不可能な感じはマーロン・ブランドなどにも近いのかも知れない。日本人だと故三国連太郎に近いものを感じる。
ひょっとしたら、1960年代の石原裕次郎も同じような無敵な雰囲気を持っていたのかも知れない。
福山雅治と同様に数年前までカリスマ性とありがたみを持っていた有吉弘行が、いまや言葉の選び方のセンスが良くて比較的ボキャブラリーの豊富なタレントといった程度の存在に成り下がったことを思えば、福山雅治のメディアでの行動から見えるカッコよさは貴重だろう。
大きなスクリーンで映画を見ていてわかったことは、顔がカッコいいだけではなく、立ち居振る舞いに主にカッコよさの要素がある、という点だった。
演出は全体としてはダメでも、主人公をカッコよく見せるという点に関してはすぐれていたのかも知れない。
シンガー・ソングライターとしての福山雅治には、曲にも歌声にも何の魅力も感じないが、俳優、福山雅治は日本映画をレベルアップさせる可能性を秘めた貴重な俳優であるに違いない。
このつまらない映画からでさえ感じとることが出来た確信に近い思い込み、それは、福山雅治は佐田啓二の生まれ変わりとして日本映画を救うために現れた希望の星である、ということだった。
公式サイト
福山雅治だけでなく、この映画を面白くしている俳優は少なくなかった。
テレビタレントだと思っていた杏のスクリーン映えする美しさと硬質な存在感、立ち姿の見事さなどは意外な驚きだった。泣き顔の美しくなさが今後の俳優の仕事にプラスなのかマイナスなのかは未知数だった。
風吹ジュンの疲労感をにじませた美貌、前田吟の苦渋に満ちた人生を生きてきた感じなどには、映画専門俳優ならではの味わい深さがある。
吉高由里子の場違いになまめかしい横顔も良い。
もっとも感動的だったのは、ほんの一瞬の場面だったが、白竜が演じていた若いころの回想シーンで、あえて罪を背負って生きることを決意して走り出す場面に宿っていた濃密な空気に、「これこそが映画というものだ!」と心の中で喝采を送った。あの場面だけでも90分くらいの犯罪悲劇の値打ちがありそうに見えたものだった。
チョイ役ながら、田中哲司の薄っぺらな存在感の父親ぶりは『アウトレイジ ビヨンド』に引き続いて面白かった。西田尚美の悪い女役も軽く流した感じながら好ましく映った。
と、ストーリーも演出もそっちのけで俳優の顔ばかりを見ていても映画を楽しむことは出来ないことはない、と信じたい。前作の『容疑者Xの献身』よりは、こっちが良かったような気もする。
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